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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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9.文献探し 3


 リオンとロアは、よく見る本の場所を覚えている。


 そうした観点から、元あった場所に戻すよう、目印やメモを利用しつつ作業していた。


 皆で第一段階に取りかかっている時、フィーナはザイルに声をかけられた。


 そう言えば、ザイルに礼を言っていない。


 情報をもたらしてくれたこと、作業を手伝ってくれること、何より、家を提供してくれた礼を告げると、ザイルはなぜか上機嫌だった。


「久しぶりにフィーナの薬茶が飲みたいのですが」


「え……でも……」


 自分の為に皆が手伝ってくれるのに、当の本人が作業から離れるのはいかがなものか。


 そう思って周囲を見渡すと、ザイルとフィーナの会話が聞こえていたのだろう。


 視線が2人に集中していた。


 その誰もが、期待に満ちた眼差しを向けている。


「え? えっと……?」


 戸惑うフィーナに、アルフィードが皆の気持ちを代弁した。


「朝早くから起きて、長く馬車に揺られて疲れているから。

 休憩も兼ねて、お茶を準備してちょうだい。

 私も、久しぶりにフィーナのお茶、飲みたいわ」


 姉に促されて、フィーナは戸惑いつつ、側の実家で薬茶を煎れた。


 フィーナの作業に気付いた両親にも頼まれて、二人にも煎れる。


 先に口を付けた二人は「ほう」と満足げな息をついた。


「材料は同じなのに、なぜかしらね。

 フィーナが煎れた方がおいしいのよね」


 告げる母と同じく、後にザイルも同じことを言っていた。


 材料はあるから、時々自分でも煎れるのだが、なぜかフィーナが煎れてくれたようにはいかない。何がどうとは言えないが、物足りないのだという。


「そうなの?」


 いつも自分で煎れているから、フィーナはよくわからない。


 茶葉を渡している姉、サリア、カイルと――なぜかアレックスとレオロードもザイルに同意して頷いていた。


 書庫のテーブルにお茶を準備する。


 朝から根つめていた面々は、フィーナが煎れた薬茶を口にして「ほう」と体の緊張を解いていた。


 テーブルには薬茶と茶請けが小皿に準備されている。


「これは?」


「野菜の塩漬け。保存食だけれど、お茶を飲む時、塩っけがあると何かおいしいの」


「食感がいいですね」


 口にしたレオロードがポリポリシャクシャク音を立ててながら、珍しそうに告げる。


「保存食にしては瑞々しい」


「浅漬けだから」


「これは?」


 カイルはもう一つの小皿に盛られた、赤い実について訊ねる。


「それはクルの実」


「え……」


 サリアが顔色を変える。


 それに気付いたフィーナが補足した。


「大丈夫。サリアが苦手な酢漬けじゃないから」


 クルの実の酢漬けは、庶民から貴族籍の面々まで、幅広く食されている。


 身分を問わず、国では一般的な薬味であり、酢の効果を利用した防腐剤であり、夏の汗を汗をかいた体の疲労回復にいいとされていた。


 しかし、酸味が強い食材であることから、苦手とする人も少なからず存在した。 


 サリアもそのひとりである。


 サリアから聞いていたフィーナは、実家にある食材を「いつか試してもらいたい」と思っていた。


 機会である今日、茶請けの一つとして出したのだ。


「大丈夫。酸っぱくないから」


 にっこり笑って、自信満々に告げるフィーナを、サリアは戸惑いの眼差しを向けていたが――。


 意を決してパクリと口に含む。


 話の流れから、サリアが口にするまで、同席した面々、口にするのを遠慮していた。


 フィーナはサリアの為に用意したものなので、サリアが最初に口にすべきだと思ったのだ。


 顔をしかめて咀嚼していたサリアは、一噛み、二噛みした後、体の緊張と顔の強張りを解いて、キツネにつままれたような、戸惑いを含んだ表情をフィーナに向けた。


「――酸っぱくない。……これって……甘いの?」


「美味しい?」


「ええ。これなら食べれる……」


 サリアの話を聞いて、同席する面々がこぞってクルの実に手を伸ばす。


 不思議な食感に驚きながら、成人を迎えているザイルが眉を寄せた。


「これはアルコール漬けではなのですか?

 クル酒の実と同じ味わいですが……」


 クルの実は、甘味料とアルコールに漬けこんで、果実酒ともなる。


 果実酒として、実も食せる。


 クル酒の実と同じ味わいだと、ザイルは告げる。


「違うけど……もしかして発酵してる?」


「発酵?」





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