6.ドルジェ村へ 6
ザイルは今もドルジェに身を寄せている。
アルフィードはドルジェで行われていた、カジカル対策を知らない。
マサトの案を元にしているので、対策が成された時にはアルフィードは王城での生活となっていた。
ザイルはマサトとほぼ同時期からドルジェに住んでいる。
彼ならば、何かしら知っているのでは。
ザイルは元はオリビアに仕えていた。フィーナの警護として村に居た関係から、連絡手段として遠距離の会話が可能な魔道具を持たせている。王族だけが所有するのだ。
オリビアの元から離れたザイルだが、有能なのは変わりないので、手が足りない時は時折、仕事を頼んでいた。
魔道具を使ってザイルに確認すると、彼はあっさりと「知っている」と認めた。
ドルジェでのカジカル被害は数年に一度、数件の被害だが、キンラでカジカル避けを成しているのは本当らしい。
ついでにこうも告げた。
「キンラの花の香りを、カジカルが嫌うと書かれている文献も見た事ありますが――」
話を聞いた誰もが興奮したのは、言うまでもない。
文献があるなら、フィーナはそれを差し出せば済む。
ルディ、第二王妃としても、自分たちが行う前から行われていた対処法を、自分たちの案だと言い張ることはできないだろう。
帰省申請通り、ドルジェに赴くことにして、文献を探すことになった。
ただ、ザイルもどの文献に記載されていたかは覚えていないと言う。
「フィーナも知っているとおり、家の書庫ってあれだから、探すのに時間がかかると思うの」
事情を知ったカイルとサリアが、一緒に探すと申し出てくれたのだという。
カイルはオリビアの連絡を密に取っていた関係から、サリアはカイル及びガブリエフと連絡をとっていた関連から、事情を知ったそうだ。
続けてサリアが告げる。
「お父様も、調査団には足止めされるとおっしゃっていたから。
今日、聞き取りの段取りをくんでいたようだけれど、それは調査団側のこと。
セクルトにも役所にもまだ届けていないようなの。
当日申請すれば、即、取り行えると思ってる世間知らずの方ばかりのようでね。
……だから逆に、フィーナに何をするか、怖かったんだけれど……。
とりあえず、通常の手続きで進めるとおっしゃってたわ。
文句言われたら、一蹴するともね。
貴族籍の我儘を何でも通せると思ってるから、お父様も渋ってらしたわ。
……ただ。
陛下直々の通達となると、どうしようもないのだけれど。
その可能性も拭えないから」
カイルとサリアの申し出はありがたいが。
「二人とも……泊まるところはどうするの?」
訊ねるフィーナにアルフィードが答えた。
「ザイル様のお住まいで話がついているわ。
時々、ディルク様もリーサス様も行かれているらしくて、部屋数もあるそうだから」
「そうなんだ……」
納得しつつ「いつの間に、そんな家を所有したのか」と不思議でならない。
両親の元で働くようになってしばらくして、村に家を借りたと言っていたが……その時なのか。
セクルトに入る前は、ザイルが貴族籍で騎士だと知っていたものの、格式のある家の人と思っていなかったので、借りた家も一部屋あるかないかの一人住まいと思い込んでいた。
ザイルも一緒に探してくれると言う。
カイルが同行した関係で、アレックスとレオロードも護衛として同行している。
今も馬車側で騎乗していた。二人も探してくれるそうだ。
サリアとカイルの申し出はありがたいのだが――。
「カイルは……大丈夫なの?」
王族が市井の家に来てもいいのだろうか。
訊ねるフィーナに、カイルは呆れた。
「何を今さら。姉上も行かれていたんだろう?」
「あ……そうだね……」
苦笑しつつ、今ならアルフィードの思いが理解できた。
姉もオリビアを実家に呼んだ時、今のフィーナと同じ思いだっただろう。
視界の隅に映るアルフィードは、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
それからドルジェまでの道すがら、様々な確認事項をとっていった。
その間、マサトはフィーナの足元にいるものの、体を丸めて目を閉じて、口を閉ざしていた。




