4.ドルジェ村へ 4
『自分には関係ないと、初めから可能性さえ考えずに行動するの、やめろよ。
自分の価値をよく考えて行動しろよ。
良く見れば簡単に気付く罠に、良く見もせずに自分からかかってから助けを求められたって、対処できないこともあるんだ』
「――――……」
マサトの言葉に、フィーナは何も言えず、顔と体を強張らせた。
険悪な雰囲気で、しん、と馬車内が静まり返る。
アルフィードも戸惑いつつ、フィーナとマサトを伺いながら口を開いた。
「フィーナの名が広く知られた関係で、フィーナに聞き取り調査が行われることになったんだけれど――」
元々、レイダム領のカジカル被害に関しては、調査団が結成されていた。
調査団はカジカル被害の対処法を、学術的に調査しようというものだった。
ルディへの聞き取りは随時行われていた。
ルディの応対で事足りているはずだったのだが、フィーナが提案したと知れると調査団の興味は一気にフィーナへと向かった。
「カジカルの被害は国のどの領でも、毎年、一定数は報告されているの。
その点、レイダム領の対処は目を見張るものだった。
陛下もルディ殿下を高く評価されたわ。
その方策を後世へ残すために調査団を作るよう命じられたの。
陛下としては民に広く知らしめたかったようだけれど、第二王妃様が渋られてね。
――聞きかじった迷信を即実行したのではない。実験などから効果ありと見て対処した。
効果あるかどうかもわからない実験に資金を投入して、懐を痛めたというのに、他は何もリスクを負わないのかと言われたそうよ。
第二王妃様の言い分も理解できるから、折衷案として、先々十数年は、記録した文献を公表しないこと、その間はレイダム領及び、ルディ殿下が対応策を独占できる、けれど十数年後は文献を解禁して、広く知らしめる――。
そう取りきめることで落ち着いたの。
先々十数年は、対処法を門外不出――独占状態となるでしょうね。
そうしたところへ、素はフィーナの案だと知られた。
フィーナの案が――フィーナが知っていたものがきちんとしたものだったら、ルディ殿下の講じた策でなく、他の策として広めることも可能でしょう?
フィーナへ早急に聞き取り調査がなされることになったのは、そうした事情なの。
――確認だけれど、ルディ殿下に話したのはきちんとした情報だったの?」
マサトの話で体を強張らせていたフィーナは、アルフィードの話を聞いて、より一層体を強張らせた。
話を聞く限り、聞き取りをしたかったのは国王陛下の意向だ。
そこまで大きな話しになっているとは、フィーナは思っていなかった。
かぶり振るフィーナを見て、アルフィードは現実を突き付ける。
「聞き取りと言っても、調査団が望む、きちんとした答えをもっていなかったら、尋問になったでしょうね。
調査団の面々は、貴族籍の、それなりに格式と学識のある方ばかりだから。
市井出身者、セクルト貴院校の学生だとしか見ていなかったら、拷問もありえたわ。
市井出身者を人としては見ていないのよ」
拷問。
その単語にフィーナだけでなく、カイル、サリアも体を委縮させる。
「おそらくだけれど――噂を広めたルディ殿下の側仕えの方は、調査団がフィーナに聞き取る状況も想定していたはずよ。
尋問、拷問もありえるとわかっていたはず。
なのに、フィーナの名を広めた。
――マサトの話を聞いて、思ったのだけれど、オリビアの元へ行きにくくするだけじゃなくて、そうした状況になったとき、ルディ殿下を頼るよう、仕向けようとしてたんじゃないかしら」
レイダム領の詳細はルディに頼るしかない。
ルディはハロルドを世話したよしみから、フィーナの懇願を無下にしないだろう。




