2.ドルジェ村へ 2
それまで隣に座っていたマサトを、フィーナは膝の上に抱く。
一通りの挨拶をした後、アルフィードはカイルとサリアに侘びと礼を告げる。
「カイル殿下、サリア・スチュード様。
申し出、ありがとうございます。
このたび、愚妹がご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ございません。
ある程度、事情は御存知かと思われますが、確認の為にも再度、ご説明させていただきます。
フィーナは何も知りません。ドルジェまでは時間がかかりますので、その間にフィーナと御二方に説明をさせて頂きます。
――その前に……。
少々、姉妹の時間をとらせていただき、礼節のない行動をとることを、ご容赦ください」
頭を下げたアルフィードは、未だ状況を飲み込めていないフィーナににっこりと微笑みかけた。
「大変だったわね」
ねぎらいの声をかけて、両腕をフィーナへと伸ばす。
レイダムの件をアルフィードも知ったのだろう。
「おねちゃん……」
心配してくれる姉に、目元をうるませて、フィーナも腕を伸ばしてアルフィードに抱きつこうとした。――のだが。
アルフィードの両腕――両手は、フィーナの両頬に添えられた。
「え……あれ?」
嫌な予感がする。
この構図は、何度も経験している。
アルフィードは頬に添えた手で、フィーナの両頬をうに、とつまんだ。
「ルディ殿下の伴魂の世話係をしていたですって……?
どうしてそんなことになったの?
なぜこちらに話していないの。
おかげで大変だったのよ?
考えなしの行動するなって、何度言えばわかるの?」
「い……いひゃい、いひゃいっ!」
頬をつまんだまま叱責する、エルド家のおしおきを、カイルもサリアも、アルフィードと同じ思いで――「しっかり叱ってほしい」と思いながら眺めていた。
『なんで毎回ひっかかるかね……』
にっこり微笑んで腕を伸ばす――。フィーナは姉が抱きしめてくれると思っているようだが、おしおきを警戒して逃げないようにしているものだ。
フィーナは毎回、おもしろいようにアルフィードの策にひっかかっている。
フィーナの膝上から足元に非難したマサトは、呆れて眺めつつ、久しぶりに見たアルフィードとフィーナ姉妹の、彼女たちらしいやりとりを、懐かしそうに眺めていた。
アルフィードがフィーナへの説教を一通り終えると、アルフィードから状況説明と今後に関して話があった。
アルフィードが何も知らないフィーナに話し、側で聞くカイルとサリアが、わからないことを質問するといった形をとった。
「今日、カジカルの件で調査が入る予定だったの」
急にドルジェへ帰省する事情を、アルフィードはそう説明した。
「そうなの?」
他人事のように首をかしげるフィーナに、アルフィードは呆れかえる。
「フィーナ。あなたへの聞き取りだったのよ?」
「え!? ルディ殿下じゃなくて!?」
「キンラの提案をしたのはあなたでしょう?」
「提案――とかじゃ、ないんだけど……」
世間話のノリで話した程度だったこと、レイダム領の件は知らなかったと告げると、アルフィードは心底呆れかえっていた。
いろいろ言いたいことはあるが、今は時間がない。
フィーナが本当に何も知らないのだと感じたアルフィードは、一から事情を話すことにした。
カジカル問題の終始は知っているので、その後の話をした。
「ルディ殿下に策を提案したのがフィーナだと広まっているわ」
フィーナに聞き取りが及んだのは、ルディが素案はフィーナのものだと認めたためでももあった。
初めは否定していたらしいが、あまりにもフィーナの名が広まりすぎていたこと、話の整合性から認めざるをえなかったらしい。
「そのことですが」
口をはさんだのはサリアだった。