1.ドルジェ村へ 1
◇◇ ◇◇
「――――……ナ…………フィーナ」
「っ! はへっ!」
体をゆすり起こされて、寝ぼけた頭で跳び起きる。
寝過ごしたかと思って焦ったが、フィーナを起こしに来たのは姉のアルフィードだった。
姉がいるということは、ここはドルジェの実家だ。
「なんだ、お姉ちゃんか……」
貴院校に遅刻かと思ったが、実家なら急ぐ必要もない。
「もう少し眠らせて……」
むにゃむにゃ呟きながら、掛け布団を抱きしめて再び眠りにつこうとした。
が、姉は許してくれなかった。
「なに言ってるの。早く起きて支度なさい」
「……支度……?」
何の支度かと、眠りかぶった瞼を押し上げて見た視界に、サリアが見えた。
戸惑いを含んだ表情で、フィーナとアルフィードを見ている。
簡素な外出着姿で、外套のフードを目深にかぶって。
「どうしてサリアが家に……?」
「家なわけないでしょう。ここは寮よ」
「寮……?」
よくよく見ると、アルフィードもサリアと同じく、簡素な外出着でフード付きの外套を纏っている。
室内は薄暗く、夜明け前だと知れた。
事の奇異さに気付いてハッとし、フィーナは飛び起きた。
「――どうして……」
なぜアルフィードが寮にいるのか。
「後で話すから。とにかく、支度を済ませて。
家に帰るわよ」
「家に?」
なぜと問うも、アルフィードは「後で話す」の一点張りだった。
話をしながら、フィーナの帰省用のバックに、着替え等、荷物を詰めていく。
「一週間分は用意して。帰省申請はこちらで済ませているから」
「一週間も?」
外出着に着替えながら、通常ではありえない帰省期間に驚いた。
実家へは貴院校が休みとなる週末に帰省するのが普通だ。
貴院校を休んで実家に帰る場合、それなりの理由が必要となる。
その他「なぜ」と問うても「後で話す」としかアルフィードは答えない。
フィーナはばたばたと身支度をしながら、ふと気付いた。
「もしかして、サリアも?」
ドルジェの実家に来るの?
アルフィードと同じく、外出着姿を見てのフィーナの呟きに、サリアは頷いた。
「事情を知って、申し出てくれたの。
こちらとしても、人手が多いに越したことないから助かるけれど。
……衣食住。貴族籍の方々のそれと違いますが、本当に構わないのですか?」
サリアを伺いつつ確認するアルフィード。
その表情には「大丈夫だろうか」との心配が見て取れた。
「構いません」
サリアの決心を感じたのだろう。アルフィードはそれ以上、何も言わなかった。
身支度を済ませると、アルフィードの案内の元、寮を出て準備していた馬車に乗り込む。
四人乗りの馬車は見覚えがある。
オリビアの馬車だ。
今回の件は、オリビアも関わっているようだった。
馬車ではアルフィードとフィーナが向かい合って座って、サリアはアルフィードの隣に座っている。
隣に憧れの人が座している状況に、サリアは極度の緊張を感じつつも喜びに震えていた。
フィーナとしては「え? 私の隣じゃないの?」とサリアの座った位置に首をかしげたが、後にそうした理由も明らかとなった。
馬車は数分走った後、一度止まった。
どうしたのかとフィーナが不思議に思っているところへ、馬車の扉が開いて、カイルが入ってきた。
「カイル!?」
驚いたのはフィーナだけで、アルフィードもサリアも動じていない。
カイルは目深にかぶっていたフードを取ると、フィーナの隣に座った。