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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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83.第一王子の側仕え 26


 ジェイクが部屋を出たのを確認すると、ルディは倒れるように椅子に腰を下ろした。


 机に両肘をついて、頭を抱える。


 なぜ。


 なぜ、こうなった。


 ルディには暴走としか見えないジェイクの行為が理解できなかった。


 行為の動機は想定できるが、これまで、ルディが頭を悩ます行為をとったことがなかったので、困惑が激しい。


 ルディが頭を悩ませるのは、ジェイクの対象者がフィーナであることだ。


 自分だったら対処できる。しかし処世術を知らない若輩者では、ジェイクの策に太刀打ちするのは難しいだろう――。


 ジェイクに釘をさしたが、広まった噂をどれだけ対処できるのか。


 しばらく考えた後、ルディはもう一人の側仕え、ダンケットを呼びだした。


 呼び出しに応じて来室したダンケットは、普段と変わりなく、淡々としていて表情の変化が乏しい。


 付き合いの浅い人間には平静そうに見えるダンケットだが、幼いころから行動を共にしているルディには、彼が珍しく動揺しているのを感じた。


「話は、聞いているか」


 レイダム領の、カジカル被害対策の案を、フィーナが講じたとの噂を。


 ルディとジェイクが一悶着あったのだと。


 ダンケットは静かに頷いた。


「諌めてはいたのですが……」


 ジェイクを性分を「動」とするなら、ダンケットの性質は「静」だ。


 思い立ったら即行動。


 そんなジェイクに、ダンケットが幅広く周囲を見定めて、補足していた。


 時に勇み足をとるジェイクを思いとどませる、助言と言う名の忠告をしていた。


 フィーナ絡みの件では、ダンケットは何度も「ルディの意向と異なるはずだ」と忠告していた。


 しかしジェイクは「ルディの為」との信念で、ダンケットの忠告にも耳を貸さず、現状に至っている。


「行き過ぎた点は否めませんが、殿下を思ってのことなのです。

 どうか、その点は御理解を……」


「わかっている」


 言いながら、ルディは片手で両目を覆って、長く息を吐いた。


 わかっている。


 ジェイクの行動の起点は、ルディに置かれていると。


 ルディを主とするからなのか、ルディに盲信しているからなのか。


 ジェイクは「ルディに良か不か」で判断していた。


 ジェイクの真摯な忠誠心は感じている。


 問題は忠誠心がため、ルディの意向に関係なく、ルディの為になるとジェイクが判断した状況となることだ。


 ジェイクの行きすぎた行為は、これまでも目にしていた。


 事が大きくならかなったので、取りざたして忠告することも、話をすることもなかった。


 曖昧にしてきた、自分の責任か――。


「それは違います」


 後悔の念を抱くルディに、ダンケットがつぶやく。


「ジェイクは彼なりの考えがございます。

 また、殿下は殿下の考えがございます。

 ジェイクと殿下、最終的に向かう先の違いから、これまでも些末な行き違いがございました。

 今回はそれがより大きく露見しただけのこと。

 殿下が気に病むことではございません」


 ルディはゆっくりと――目を覆っていた手を降ろしてダンケットに目を向けた。


 依然、ダンケットは不安そうな表情を覗かせている。――付き合いが長いものしか感じない程度の表情の変化で。


 動のジェイク、静のダンケット。


 昔から人目につきやすいジェイクが評価され、影薄いダンケットは「第一王子の側仕えに必要ないのでは?」と言われてきた。


 ルディとジェイクとダンケット。


 幼いころから行動を共にしてきた三人にしかわからない、信頼関係がある。


 ダンケットは近しい者の感情に敏感だった。


 誰も気付かないルディの内心、ジェイクの胸の内。


 誰にも明かさない二人の感情を敏感に感じ取っていた。


 いつのころからかダンケットは、ルディとジェイクの橋渡し的存在となり、調整役となっていた。


 セクルト貴院校卒業間近のころ「ダンケットをルディの側仕えからはずそう」との案が持ち上がった。


 その案に、ルディとジェイクは抗議した。


 ルディとジェイクとダンケット。


 身分に捕らわれなければ、親友と言える関係となっていたのだ。


 ルディはダンケットを、つと見た。


 ダンケットは疲労感の強い眼差しに躊躇しつつ、狼狽を悟らせぬよう気を付けた。


「ジェイクを、頼んでいいか」


 自身の信念だけにかられて動かないように。


 ルディの心根と異なる結果とならぬように。


 ジェイクを、諌めてほしい――。


 ルディの心情は、ダンケットにも伝わった。


「こうだ」との信念をもって動くジェイクを留めるのは難しい――。


 ダンケットもわかっていたが、憔悴したルディを目の当たりにしては本音を語れなかった。


「――善処致します」


 そう答えて、部屋を後にした。


 言葉に偽りはない。


 ルディの望む姿へと導く。


 そのために、これまで避けていた、ジェイクとの細部に渡る対話が必要だと、ダンケットは思っていた。



 


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