81.第一王子の側仕え 24
フィーナの案だと知れたら、彼女に人が群がるだろう。
そうした事態を、ルディは避けたかった。
そのため、対策の支持を出す途中でフィーナの提案だと知った者達には、固く口止めしていた。
――フィーナの立案だと知られぬように。
フィーナは案を告げただけで、レイダムで実際、どのように対処したかを知らない。
フィーナの名が知れれば、他の貴族籍に聞かれた時、ルディに話したように気軽に答えるかもしれない。聞かれるまま、不用意な発言をして、結果、思った結果が得られなければ、処罰される危険もあった。
実際、フィーナの提言だけでは対処には不十分だった。
ルディもフィーナの話だけを信じて実行したわけではない。
話を聞いて、カジカルがどのようにキンラの花の香りを嫌うかを確かめ、効果ありと判断したうえで講じた策だ。確認もせずに大規模な対処をとるような、愚かな真似はしない。
ルディはキンラによるカジカル対策を行った際、効果がなくとも、フィーナに責任を求めるつもりも罰を与えるつもりもなかった。
フィーナは学生だ。
仕事として提案したものでもないのに、責任を求めるものではないと、ルディは考えていた。
同時に、成果があったとしても、フィーナの功績とするつもりもなかった。
責任を負わないのだから、功績をあげてもフィーナの称賛としない。
そのような心配りをしつつ対処していたところへ、フィーナの噂が広がっている事実を知り、底暗い苛立ちと不快感が腹の奥に沸き立った。
フィーナの提案だと知る者には口止めしている。
――フィーナ自身を除いて。
レイダム領のカジカル対策に、キンラが有効だった、自分の案が効果あったと知り、名声を欲したか。
目立ちたくないと、フィーナは言っていた。
ルディと知己の関係も欲しいとは思わないとも言っていた。
権威も称賛も欲しないと言っていたが――今になって惜しくなったか。
フィーナに、これまで接してきた者と違うものを感じていた分、ルディの苛立ちは大きかった。
権威に興味ないとの発言を真に受けて、彼女に口止めしなかった自分にも苛立ちを覚えつつ、直接話を聞きに行ったのだ。
直に話して――彼女の狼狽ぶりを目の当たりにして、荒いでいた気持ちも少しずつ落ちついていった。
フィーナはレイダム領のカジカル被害さえ知らなかった。
庭園の被害対策と思って話したものが、一つの領の問題対策に用いられたと知ると、事の重大さに震えあがっていた。
――そんな彼女が自分の案だと自慢するだろうか?
ルディがレイダムに支持を出す前にフィーナに「案を試してみる」と告げていたら「やめてください」と懇願される――そんな状況が想像できる。
フィーナでなければ、いったい――。
思考を巡らせて思い出したのは、フィーナとカジカルの話をしていた時、その場に居合わせた人物だった。
――口止めしなかったのは、フィーナの他にもいた。
ジェイクとダンケット、二人の側仕えにも口止めをしていなかった。
二人のうち、その場に居合わせたのは――。
付き合いの長い二人は、言わずともルディの意志を汲みとってくれると思いこんでいた。
信頼に乗じて甘えていた。それが招いた事態に、ルディは苦い思いを噛みしめる。
ルディの問いに、ジェイクはしばらくの沈黙の後、小さく息をついて口を開いた。
「フィーナ・エルドの案を採用したとしても、殿下の功績は揺るがないでしょう」
「人の案に頼らねばならない愚鈍な主としてか?」
嘲るルディに、ジェイクは緩く首を横に振った。
「逆でしょう。
上に立つ者として重要なのは、様々な策を思いつくことではありません。
人の視野には限界があります。
有効だと思える策を柔軟に採用し、実行する。
良策かそうでないかの取捨を迅速に行える。
それが上に立つ者に必要なのです。
殿下は今回、それを見事に果たされたかと存じます」