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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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27.フィーナの入学準備【オリビアとザイルの談話】

すみません。核心部まで到達しませんでした。

核心部へ話が行く前段階の話となります。


「試験?」


 アルフィードに随行していたザイルが戻ってしばらくしたころ。


 二週間後にはセクルト貴院校に入学するという時分に、ザイル伝いに貴院校からの報せを聞いた。


「この前、受けたよ?」


 首を傾げるフィーナ。


「確認したいことがあるとのことです」


 告げるザイルに「えー」とフィーナは不安げな声を漏らした。


「もしかして点数悪すぎた? 簡単だと思ってたんだけど」


 貴院校のクラスは一学年五つに、成績順に分けられる。


 その年巡りの子供の数によって違いはあるが、それはクラスの人数で調整されていた。


 同レベルの者を集めた方が効果があるためとのことだった。クラス分けは身分に関係ない。


 基準はあくまでも個人の能力だ。そのクラス分けの能力を計るための試験を、フィーナは受けたばかりだ。


「それはないかと思うのですがね。点数が悪ければ、あちら側としては『してやったり』でしょうから」


 珍しい獣であるネコを「不適合」として取り上げようとする輩が、フィーナをセクルト貴院校に入学を後押ししたのだろうとの疑惑がある。


 そうした輩からすれば、点数が悪すぎるので再試験を。とは考えないだろう。


「だったらどうして?」


 首を傾げるフィーナに、ザイルは「さあ?」と首をすくめた。


「どのような思惑があるかわかりませんが。フィーナがよければ私が同行しましょうか? この前はアルフィード嬢の随行でドルジェに居ませんでしたからね」


 試験会場は中児校で、セクルト貴院校からの出向員によって行われた。


 休日の教室で一人、筆記試験を受けて、伴魂試験も受けた。


 今回も同じ試験をするとのことだ。内容は前回と違うとのことだったが。


 ザイルの申し出をフィーナは喜んで受けいれた。中児校の先生も待機してくれたが、貴族籍を持つザイルが側に居てくれると、非常に心強い。


 そうしてザイルが試験会場となる教室の後方で待機する中。


 再試験が行われたのだった。



       ◇◇        ◇◇



「これ、本当?」


 ザイルからもたらされた情報を、オリビアはにわかには信じられなかった。


 動揺するオリビアとは違い、ザイルは高揚した表情を浮かべていた。


「ええ。後ろから見ていましたが、不審な行動は一切なく、フィーナ自身が全て解いていました」


 騎士団に設えた来客室には、オリビアとザイルの二人だけだった。


 人ばらいをしているので、アルフィードも室内に居ない。


 ザイルはオリビアが統率をとる騎士団から脱退した後も、連絡をとりあっていた。


 オリビアもザイルも、互いの利を鑑みてのことだった。


 オリビアはザイルからもたらされた、フィーナの再試験結果を見て、言葉を失っていた。


 試験の結果は関係者以外、基本的に明かされることはないが、ザイルはベルーニア家の威光と以前所属していたオリビアの要請であると強行して、取得したものだった。


 オリビアの手元には試験問題とフィーナの試験結果がある。


 それを見てのオリビアの驚きだった。


 筆記試験結果はほぼ満点。


 伴魂試験に関しては、問題ないが考慮が必要との判断だった。


 筆記試験のほぼ満点は、おかしいことではなかった。


 フィーナの姉、アルフィードも同じ結果を出していたのだから。


 ただ、今回は少々事情が異なる。


 前回受けた試験も、フィーナはほぼ満点を修めていた。


 のちに判明したことだが、フィーナが受けた試験は、貴族の子女が受ける試験レベルだった。


 思ってもみない高得点に、間違いではないのかと、慌てて再度、同レベルの試験で確認をとったのだ。


 基本的に市井の中児校が受ける教養レベルと、貴族の子女が受ける教養レベルには差がある。


 生活に準じた素養が主となるので、違いは必然だった。


 市井の民に過去の政変遍歴の知識は必要ないが、貴族には素養の一つなるし、逆に貴族には村での行事の意味は必要ないが、庶民には必要なことだった。


 計らずしもフィーナは、その二つでほぼ満点を出したのである。


「どうして……フィーナが知っているの」


 市井の中児校で教授しないことを知っているのか。オリビアの戸惑いはザイルも思っていた事だった。


「私もフィーナに尋ねました。なぜ、知っているのかと。フィーナからの返答は、至極まっとうなものでした。『わからなかったから調べた』のだと」


 確かに、中児校、小児校、それぞれの図書室には、様々な文献が揃えてある。


 文献はどの学校も一律同じだった。


 三代前の王の時代に、全小児校、中児校、セクルト貴院校の図書室に、贈呈された同一文献がある。


 フィーナはそれを読み解いたとのことだった。


「何より驚いたのは、算術の速さです」


 告げたザイルは、フィーナに出された試験問題をオリビアに見せた。


 計算が苦手なオリビアは、問題を見てあからさまに顔をしかめる。


 苦手でも、仕方なく問題文を読んで「ん?」と眉をひそめた。


「これが入学試験?」


「ええ。主体者が誰とも知れませんが、姑息さに笑いがこみあげてくるでしょう?」


「笑いというより……戸惑いよね」


 算術は計算問題が主体となる。


 しかしフィーナの試験問題には、数問、セクルトでも時折しか出題されない問題が紛れていた。時間に関する問題で、オリビアもセクルトでしか目にしたことのないものだ。


『インク瓶がいくつかある。これをそれぞれの教室に5個ずつ配ったとき、3つあまり、4つずつ配ったとき、5個余る。教室はいくつあるか』


 オリビアが苦手とするこうした問題にも、フィーナは答えて、正解を得ていた。


「って、ちょっと待ってよ」


 オリビアは混乱していた。


「これって、セクルトで習うことでしょ?」


 オリビアの戸惑いに、ザイルは苦笑する。


「やはり、そうでしたか」


 ザイルも可能性は考えていたが、セクルトを卒業して期間がたっているので、確証が得られずにいたという。


 出題者の意向は明らかだ。回答困難と思われる問題を混ぜて、先に行った試験問題の点数より低い点数を導きたかったのだろう。


 しかし結果は藪蛇となってしまった。


「頭を抱えてるってことね」


 下手な小細工をしたがために、自らの首を絞める結果となったのだ。


 出題者にザマーミロ。と思う反面、不思議でならかなった。


「フィーナはなぜ解けたの?」


 ザイルもわかりかねたが、考えられる事はあった。


「フィーナは両親の薬屋を手伝っていました。

 算術に関しては、日常生じることなので、そこから応用をきかせた可能性も考えられます」


 その応用なのではとザイルは当たり障りのない返答を用いた。


(伴魂の指導の賜物なのでは)


 そうした本心を隠して。


「商いのいろは」はわからないオリビアは、エルド家薬店の商いに関わっているザイルの言葉に「それもそうね」と素直に納得した。


 納得しながらも、渋面は変わりない。


「これって……どうなるのかしら」


 再試験を行っても、好成績を叩きだしたフィーナが、どういった立ち位置となるのか。


 正当な評価が、必ずしも本人の為になるとは限らない。


 やっかみの対象になるのではとの危惧を、オリビアは考えていた。


「評価せざるをえないでしょうね。……フィーナは嫌がりそうですが」


 成績優秀者のクラスに入ることになるだろう。試験結果から見る限り、十分に能力は足りている。


 ザイルからもたらされたフィーナの試験結果を確認したオリビアは「それで」とザイルに声をかける。


「話とは何かしら」


 フィーナの試験結果は、オリビアが調査を依頼したものではない。ザイルから切り出されたものだった。


 ザイルがフィーナの試験結果が気になったのは偶然だった。


 再試験に同行したとき、試験官とすれ違った折に、偶然見えた試験問題に疑念を持ったのだ。市井出身のフィーナに、政変に関する言語が問題にあるなど、ありえないはず――。


 不当な問題で評価されるのではとの危惧から調査したのだが、フィーナはザイルの予想の上をいく結果を出していた。


「オリビア様は、この結果をどう思われます?」


「……どう、とは?」


「アルフィード嬢と同じくセクルトに在籍した過去を鑑みて、非常に目立つのではと」


「……まあ、確かにね。アルも入学当初は悪目立ちしてたものね」


 最初のクラスわけでは成績中ほどのクラスだった。


 それが上位クラスの生徒より時期折々の試験で好成績を修めた。


 結果、次の年には上位クラス、オリビアと同じクラスへ入る事になったのだ。


「伴魂はどうでした?」


「……あー。そっちの心配ね」


 ザイルの言いたいことを理解して、オリビアは嘆息した。


「アルの伴魂は小鳥だったから、そう目立たなかったけどね。小鳥の伴魂、他にもいたし。けどネコかぁ。目立つわね、あれは」


「必要以上に校内に居なくともいい状態にしたほうがよろしいかと。

 セクルトの校則や国の規範を確認したのですが、校内で伴魂と共に行動しなければならない、登校しなければならない等の決めごとはなかったので、違反を問われる心配はないかと思われます」


「伴魂と行動を共にする大前提だものね。定める必要性もなかったでしょうし」


「『伴魂と行動を共にしないのはおかしいではないか』……などと言いだす輩がいるのでは、との懸念はあります。

 できれば先んじて何かしらの手段を講じていただけないかと」


「それを頼みに来たってことね。

 いいわ。それはこちらでどうにかするから。

 ……ところで」


 すっとオリビアが纏う雰囲気が冷えたものに変じた。


 気付いたザイルは、すっと足元が寒くなる感覚を覚えながら、表情を変えずに対面していた。


「フィーナの伴魂を狙う輩は、あれ以降、いなかったのかしら?

 フィーナと伴魂の護衛として派遣したはずだけど。

 一度も報告がないということは、何もなかったということかしら。騎士団を退いた今も、それ相応の対価は払っているはずだけれど?」


「ええ。いませんでしたよ。

 ……ところで、捕えた輩の行方はどうなったのですか?

 牢に入れたものの、逃げられたと聞いていますが」


 オリビアはバツが悪そうに眉をひそめて、緩く首を横に振った。


「結局、わからないまま。再度、行動を起こすかと思っていたけれど、何もないところを見ると、諦めたのかしらね」


「そうですか」


 ザイルも責めるつもりで聞いたわけではない。確認しておきたかっただけだった。


 ザイルは独自に逃げた輩について調べてみたのだが、何もわからなかった。一度きりの襲来だったため、調べる材料も少なかった。


 過去の話になり、ふと思い出したことをザイルは口にした。


「『レイブラント』とは何か、心当たりはありませんか?」


「『レイブラント』? 何、それ」


「逃げた輩が口にしていたのですが」


「――聞いたことないわね」


「そうですか」


 ザイルも調べてみたが、わからないままだった。


 フィーナの伴魂に聞いても、のらりくらりと交わされてしまう。


 それからザイルとオリビアは、フィーナがセクルト貴院校に入学したときの想定される事象を話し合って、フィーナ自身にも注意事項として伝えておくことにした。


 セクルトは基本、寮暮らしなので、ザイルと接触できるのは、週に一度、帰宅が許されている時だけだ。


 オリビアは校内でも会おうと思えば会えるのだが、さらに注目を集めてしまうのは目に見えているので、それは避けたい。


「アルも大変だったけど、フィーナも大変そうね」


 貴族の子女との慣れない生活、異なる常識、知識。


 アルフィードも最初は戸惑いの連続だったろう。


 アルフィードは物事を粛々と受け入れて対応していたが、フィーナの場合、苛立ちを募らせていく姿が目に浮かぶ。


 フィーナの性格を知っている二人は、どちらからでもなく嘆息をもらした。





やっぱり、長くなりました……。

二つに分けました。

次こそ、本筋に触れます。

本日、更新できたら更新します。

書きあげてはいますが、推敲を手間取るかも。

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