78.第一王子の側仕え 21
答えたのはフィーナでなく、マサトだった。
『ワリ。それ、俺が原因だわ』
サリアとカイルだけではなく、フィーナも驚いた。
マサトは『むー……』と考えながら、ピンと立てた尻尾を揺らめかせながら続けた。
『アブルードでも効果あったから、ドルジェにいる時、フィーナに話したんだよ。
ドルジェでカジカルに作物食われて、困ってる家、あったろ。
その対策で話したの、フィーナが覚えてたんだろうな』
ドルジェでは被害があったのは数件だったので、効果があっても話題となるほどでもなかった。
レイダムは領全体で取り組んだ大事業だったため、人々の口にのぼったのだ。
『もとはここに来る前の知識を応用したんだがな』
「ここ?」
首を傾げるカイルに、マサトは説明した。
『転生前――この世界とは別のとこでの話だよ。
……ばーちゃん、トマトの側に虫除けでバジル植えてたから。
効果あるって言われてたけど、実際どうかはわかんなかったけど。
アブルードでは、カジカルがキンラの花の香りを嫌うって何かで聞いたから、ばーちゃんの畑、思い出して試したら効果あったんだ。
それをドルジェでも試して、フィーナが覚えてて、レイダムでの結果になったってわけだ』
「それって――結局、マサトが原因なんじゃない!
私にそんなこと教えなければ、こんなことにならなかったんじゃないの?!」
『うっわ。なんつー責任転嫁。
じゃあ、ドルジェでカジカルの被害に困ってた人、ほおっておいたほうがよかったか?
レイダムも、助かった人、多いだろ。
フィーナが提案するんのは悪いと思わねーよ。
俺が気を付けろってのは、情報元を考えて、言ったらどう影響があるかを考えて、対処法持った上で話せって言ってんだ』
「う……」
もっともなことを言われて、フィーナは口ごもり、サリアとカイルは「うんうん」とマサトに同意して頷いた。
「そんなこと言ったって……。気付いたらしゃべっちゃってるんだもん」
『だーかーらー。それを気を付けろって言ってんだろーが』
『まだわかんねーのか』そう言って、マサトは伸ばした尻尾でパシパシとフィーナの頭を叩く。
「うううう……」
反論できないフィーナは、口を曲げて円卓に突っ伏していた。
「大丈夫だと思うけど……フィーナの名が知れて、カジカルの生態をなぜ知っているのかと聞かれたら、どう答えるつもりなの?」
フィーナとマサトのやり取りを見て、サリアは再度、不安にかられてフィーナに訊ねた。
カジカルの知識は、フィーナの実家の書庫で得たものだと思っていたのだが、マサトが情報源となると、答え方に注意が必要だ。
「え……何となく覚えてましたって言うけど?」
机に突っ伏したまま首を傾げつつ、手はしれっとマサトを指ささしている。
『てめ。』と眉を吊り上げたマサトがパシパシと尻尾でその手を叩いた。
「いたたた。冗談よ冗談。
ドルジェで誰からか聞いたのを、覚えてたんじゃないかって言えばいいんじゃない?
貴族籍の方々って、田舎の風習知らないでしょ?
「そんな知恵があるのか」で、納得すると思うけど」
あっけらかんと答えるフィーナに、サリアとカイルは言葉を失った。
『それで済むのか?』と、マサトは懐疑的だ。
「いいわけないでしょう」
頭を抑えて、サリアは続ける。
「いえ、それで済む場合もあるでしょうけど、今回の件は事が大きすぎるわ。
取られた対策も、費用の負担が少なく、一般的な植物を用いているから、誰でも簡単に行えてしまう。
私が領主だったら、カジカルとキンラの関係を調査するわ。
風習としている地域があるのなら、現地に行って確認して、当事者の話を聞くわ。
その時、フィーナの名前が出てきたらどうするの?」