77.第一王子の側仕え 20
護衛二人もカイルと同じ話しか聞いたことがなかったという。
「しかし……あの件にフィーナが関わっていたとはな」
「領の問題だって知ってたら、キンラの話なんてしなかったわよ」
「本当に、効果があったからよかったけど……。
……効果なかったら、どうなってたのかしら」
「やめてよっ! 怖くて考えないようにしてたんだから!
効果あって、無事、問題解決!
それでいいじゃない!」
「効果なかったら、何かしらの処罰があってもおかしくないな」
「カイルまで~!」
『そうやって考えないから、同じこと繰り返してきたんだろ?
正直「なんでコイツ、いろいろやらかすんだ?」……って謎だったが。
今回のでわかった気がする。
先々を考える能力が低いんだ。
考えなしに物言うヤツ、何て言うか知ってるか?』
「……え……何て言うの……?」
『阿呆』
「うううう……。皆していじめる……」
フィーナはいじけて背を向けて、肩を落としている。
「フィーナへの御小言はこれくらいにして――」
言って、サリアはカイルとマサトに目を向けた。
「今回の噂――二人はどんな風に聞いてるの?」
訊ねるサリアは先に自分が聞いている話を告げた。
レイダム領でのカジカル被害。それをルディが迅速に対処して、少ない被害で食い止めることができた。
これまでに類を見ない効果的な対処法、迅速な行動力に、称賛の声が上がっている――。
カイルが知っているのもサリアと同じ程度だ。
マサトはまるで知らなかった。
サリアは再度、首を傾げる。
「フィーナが聞いた時、フィーナが殿下に助言して、殿下が助言を参考に対応されて、フィーナはドルジェの聖女、アルフィード・エルドの妹だから、同じく聖女なのだと言われたのよね?」
いじけたフィーナは顔だけ振りむいて、頷いて肯定した。
確認したサリアは、さらに眉を寄せる。
「何か、気になるのか?」
訊ねるカイルに、サリアは戸惑いつつ、自身の考えを告げた。
「情報に、差がありすぎる気がして……」
サリアとカイルが聞いている話では、フィーナの話は出てこない。
下々の者と関わりが薄いとされていた第一王子が、効果ありと思える庶民の対策案を拾って、柔軟に対応したと知れたら、ルディはさらに高評価を得られるだろう。
なのに、フィーナに関する話は露ほども出ていない。
しかしルディが住まう一角では、フィーナが知られている。
彼らはレイダム領に縁ある者が多いのだろう。詳細が知れているのは、そのためではないのか。
そうした話の流れから、レイダムの噂対処は必要ないと結論づいた。
「けど……フィーナが聖女……」
「言わないで。そうじゃないって私自身、よくわかってるから」
サリアの物言いたげな呟きに、フィーナが間髪いれず物申す。
フィーナとしては「お姉ちゃんが聖女って言われるのもわかんないけど」と言いたかったが、アルフィードに心酔しているサリアには口が裂けても言えなかった。
「お姉ちゃんって、治癒魔法使えるって聞いてるけど、本当? 見たことないし、お姉ちゃんから聞いたこともなかったんだけど」
「私はそう聞いているけど」
聖女と言われるのは、そのためでもある。
治癒魔法を使える者は少ない。
セクルトでも概念は座学で教えられるが、文言も習得もさせなかった。
フィーナがマサトに「治癒魔法教えてほしい」と頼んでも『治癒魔法は知らない』と言われた。
機会がある時に姉に聞いてみようと思っていたが、必要に迫られているものでもなかったので、忘れていた。
「カジカルがキンラを嫌うと、よく知っていたな」
カイルが感心したような、呆れたような表情でフィーナに告げる。




