76.第一王子の側仕え 19
力あるものと接する時は、自分の行動がどう影響するのか、考えてから行動すべきなのだ。
自分が思っていなかった方向に進んで、責任を負わされるときもあるのだから。
マサトはこれまでも、フィーナに貴族籍の面々に対する接し方を注意していた。
相手方が忌憚ない関係を望んでいたので、それに準じたフィーナの行動も、問題とされることはなかった。
フィーナはしゅんとしつつ、マサトに同意した。
フィーナの話からすると、ルディはルディで考えがあるようだ。
後日、何かしらの話があるだろうから、それまでに状況を確認しておきたい。
……結果。
フィーナより多くの情報を得られるサリアとカイルにも相談することとなり、二人から
「どうしてそんなことになるの?」
「なぜいつも「その他大勢」でいられないんだ?」
――と、何かと注目を集める言動をとるフィーナは、苦言を呈された。
「二人に聞かなくてもいいのに……」
サリアとカイルが事情を知れば、小言を言われるのは目に見えている。
フィーナは「聞かなくていい」とマサトを止めたのだが、効果はなかった。
『聞かなきゃ、わかんねーだろ。
フィーナんとこに噂が来る頃にゃ、み~んな知ってんだから。
おまけに疎いし』
翌日の放課後。
魔術の訓練として借りた演習場で、サリアとカイル、二人にマサトがフィーナの噂について訊ねた。
最近サリアもマサトから魔法の指導を受けている。
勉学もマサトから受けて順調に進んでいるところ、マサトがサリアに魔法の訓練を提案した。
『テストの採点は生徒には見えないからな。結果だけ聞いても信じられないだろ』
サリアとしては、実績が残せれば、周囲の目は気にならなかったのだが、マサトは緩く首を横に振った。
『いきなり成績があがったら、ケチつけるヤツが出てくる。
誰の目にも明らかなもので、一発かましとけば、魔法も威力が増してるのだから、勉学の成績が伸びてもおかしくない。……って心境になるだろ?
ケチもつけられにくい。
……ってことで。鍛練すんぞ?』
『けけけ。』――と、マサトの底暗い笑みを見たサリアは、背筋がぞっとした予感にかられたのは、気のせいではなかった。
実際、鍛練当初はしばらく立ち上がれないほどの疲労感を覚えていた。
最近、ようやく鍛錬に慣れてきたところへ、ルディにまつわるフィーナの噂話だ。
魔法の鍛練はカイルも定期的に行っている。
サリアとカイルが同席して、他の人の目も耳も気にしなくていい環境として、演習場で話をきくことになったのだ。
部屋の扉付近には、護衛二人が控えている。
話が聞こえる距離で、外の様子にも気を配れる位置にいた。
休憩用に用意されている円卓、それを囲む椅子にそれぞれ腰をおろして、円卓にはマサトが乗っていた。
「ううううう……」
二人の小言に、フィーナは身を小さくした。
「けど、今度のは私が悪いんじゃないもの……」と、小言を言われるのに納得できずにいた。
『考えなしの行動してるって、いい加減自覚しろよ』
「う゛う゛う゛う゛……。それは反省してます。身に染みてます……」
マサトのダメ出しを受けて、フィーナはうなだれた。
「けど――」
フィーナに苦言を呈したものの、サリアは腑に落ちない表情で首を傾げた。
「フィーナのそんな噂、私は聞いたことないけれど……」
サリアはカイルを見た。
カイルもサリアに頷く。
「確かに。
兄上のレイダム領での見事な対処は聞いているが、結果だけで細事は知らなかった」
カイルは護衛二人に視線を向けた。
護衛二人も揃って首を横に振る。




