74.第一王子の側仕え 17
フィーナは弟、カイル・ウォルチェスターと宰相の娘、サリア・スチュードと親しい。
二人から情報は得られるはずだし、ハロルドの世話で王城に足を運ぶ道すがら、何かしらの話は耳にしていただろう。
フィーナはルディに関係もなく、なにかしら影響を与える関係でもなく、フィーナが口にしたことを他の者が利用しようとしても、身分的な関係で、ルディが否定すれば「それまで」のフィーナの言に重きを置かれる可能性はないと思って、あの時は何気なく吐露したのだ。
口さがない噂話は、フィーナの耳にも届いていると思いながら。
ルディの言葉を聞いて、フィーナは過去を思い出そうと思考を巡らしたが、結局、小さく首を横に振った。
「そうした話があったかもしれませんが、私には関係ないと思って、聞いていませんでした」
「気にならないのか?」
「なぜですか?」
「……なぜ?」
「私は殿下の伴魂、ハロルド様の一時的な世話係にございます。
私の仕事はハロルド様のお世話。
仮にハロルド様の主である殿下が窮していたとしても、殿下の内情を慮るなど、それは仕事範疇外、出過ぎた真似かと存じますが……」
フィーナは本心を話しているのだろう。
フィーナの心情を理解しながら、ルディは困惑した。
話は通じる。
自分が訊ねたことにきちんと返事は来るが、ルディが想定する、斜め上の返答ばかりだ。
ルディは第二位王位継承者である立場から、幼いころから人の感情に敏感になっていた。
ある程度、状況を予想できて、実際そうなった。
これまでも自身の想定内で事が運んでいたのだが、対面する、弟と同い年の少女には想定外のことばかり起きる。
世話係を頼んで、時折、世間話を交えて話した内容から、知識の豊富さを知った。
それだけでなく、臨機応変に対処できる聡明さも持ち合わせている。
そうした状況を踏まえた結果、ルディからはレイダムの問題を話していないが、知っているだろうと思っていたのだが。
しかしフィーナは「知らない」と言うし「聞いたとしても、知る必要がない」と言う。
ここにきて、ルディはフィーナ・エルドという人間がどういった者なのか、わからなくなっていた。
これまで接していた誰とも異なる――。
困惑しつつ、レイダムの件を助言したと他言していないと確認をとる。
フィーナでなければ、誰だ。
先ほど話していた使用人の女性が広めたのかとも思ったが、彼女はカジカルの話をした場に居なかった。
使用人内での広がりに拍車をかけたのは彼女かも知れないが、根本となる噂を吹聴したのは彼女ではない。知る順序が逆だ。
ルディが知りたいのは、核となる噂を広めた人間だ。
対応を考えるにしても、誰が広めたかで対処が異なる。
自然に広まったと思えない、作為的なものを感じていた。
誰がフィーナが助言したと知っているのか――。
考えて、ふと思い出したのは、フィーナがカジカル対策にキンラの話をした場に同席した者の顔だった。
まさか、と思うと同時に、胸の奥で符合する感覚を覚えた。
なぜなのか、理由はわからないが、確かめるならフィーナより先にその人物だろう。
不安に顔を陰らせるフィーナに「この話は後日、改めて」と告げると、ルディは部屋を後にした。
少しでも早く確認しようと、自然と足が速まっていた。