71.第一王子の側仕え 14
「聖女様のご提案をレイダムにすぐ支持なさってくださいました。
キンラの調達もご指示いただき、迅速にカジカル対処をなさって、被害拡大を防いでくださいました」
話す中で、当時を思い出して恐れに身震いし、しかし無事対処できた安堵で感極まって泣き出しそうになり――。
そんな使用人の女性の話を聞いて、フィーナは被害を食い止められたことに胸をなでおろしつつ、事の重大さを知って、再度、血の気が引いた。
フィーナが提案したのは、庭園規模の対策だ。
――カジカルはキンラの花の香りを嫌う。
どこで知ったのか、フィーナ自身覚えていないほどあやふやな知識を「うまく行ったら被害が防げるかも」程度の心づもりでルディに告げた。
「そうなのか?」
話を聞いたルディは、そう言って軽く目を見張った程度しか驚かなかったし、その後、その話は何も聞かなかったので「眉つば」的に思われたのだろうと、フィーナは思っていた。
試してくれたとしても、鉢植えのキンラを一つ、庭園に置いたくらいだろう。
――と。
それを、レイダムにおいて、大規模で対処した?
話を聞く限り、時系列的に、キンラ定植の支持と、レイダムに配布する為の、市場に流通しているキンラの確保――つまり買い取りは、同時進行で行われていただろう。
上手くいったからよかったが――。
そうでなかった状況を想像して、フィーナはぞっとした。
カジカルの被害が拡大するだけでなく、大金をかけて手配したキンラを丸々無駄にしたかもしれない――。
自分の後先考えない言動が、自分の知らないところで大きな事象となっていたことに、フィーナは初めて、王族の――王族を含む、権力者に対して恐れを抱いた。
ルディは、多くの人を、多くの金銭を、意のままに動かせる人物なのだ。そうした力を持つと同時に、責任も背負っている。
フィーナに「レイダムの対処法」との意識がなかったにしても、簡単に告げるべきではなかった。
フィーナは自分の軽率さを歯がみした。
フィーナの心境に気付いていない使用人の女性は、高揚したように話を続けた。
自分にはわからない話もルディと成し得ており、その知識も感服するものだと。
使用人の女性としては、フィーナをほめちぎっているのだが……難しい話をした覚えのないフィーナには、困惑を深めただけだった。
彼女がいう「話」が何を指しているのか、わからない。
ルディとは世間話をしていた程度だ。
ルディとした話を、サリア、カイルとも話したし、二人とも普通に話せていたので、気にしていなかった。
(……もしかして……その基準自体が違う……?)
はたと思い返す。
一人は第二王子。一人は宰相の娘。
二人との会話から意図せず情報を得ていて、それでルディの話もついていけたのか――。
フィーナには素地となる知識があり、その上でカイルとサリアの会話から新たな知識、時事情報を得ているというのが実情だった。
もともとの素地がなければ、カイルとサリアと世情を絡めた世間話はできず、引いてはルディとも同じ話は出来なかった。その点はフィーナは気付いていないが、自分の置かれた状況が――周囲の人間が、普通でないのだと改めて思い知った。
知ってはいた。これまでも、はっとする時があった。
ただ――「自分には関係のない世界」と他人事として見ていた。