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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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26.アルフィードとシン


(あれ……?)


 見覚えのある深青の髪を見つけて、シンはつられるようにそちらへと歩みを進めた。


 オリビアが統率をとる騎士団の稽古場は、基本、オリビアの騎士団員しか入れない。


 そこに入れる女児で、見覚えのある髪色となると、一人に限定される。


「よお」


 稽古場を囲う通路を歩く女児に声をかける。


 声に気付いて振りむいた女児は、シンを見ると驚きに大きく目を見開いた。


 なぜこの場にいるのかと言わんばかりの表情は、シンも想定内の事だった。


 驚くのも当然だ。シン自身、なぜ自分がこの場に居るのか、いまだに理解できないのだから。


 振り向いたのは、予想通りの女児だった。いつかの夜の小道具店で顔を合わせた、ドルジェの聖女、アルフィード・エルド。


 オリビアの側仕えとして宮仕えしていると聞いていたので、騎士団の稽古場にいること、後ろ姿の風貌から、アルフィードだと想定していた。


「久しぶりだな」


 にへら。と笑ってシンが声をかける。驚いた表情で「なぜここに」と聞かれるだろうと無意識に想定していた。


 しかし。


「なぜここにいるのですか」

「……あれ?」


 まなじりをつりあげて睨まれるとは思っていなかった。



       ◇◇         ◇◇



「なぜって言われても……」


 アルフィードの疑念はオリビアにも及んだ。


 シンと対面したアルフィードは、すぐさまオリビアにシンに関して問いただしたのだ。


 なぜ騎士団にいるのかと。


 稽古場に居たオリビアは、アルフィードに呼ばれて側に来た。


 そこにいるシンを見て、アルフィードに聞かれて、首を傾げる。


「団員だから?」


 答えが疑問形なのは、質問の主旨を計りかねているからだ。


 部外者が紛れこんでいるのでは。そう思われたのだと考えての答えだった。


 アルフィードの驚いた表情を見る限り、オリビアの答えは適切だった。


 適切だったが、さらにアルフィードの疑念を生じさせる。


「なぜ入団を認めたの?」


「認めたっていうより、リーサスが入団させろってうるさかったから。珍しい武芸も知ってるし、他の団員も教えてもらってるから、条件も満たしているしね」


 これまで、団員に関しては何も言わなかったアルフィードが、なぜシンの事を聞いてくるのかと、オリビアは怪訝な表情を浮かべた。


「だって――」


 素性が確かではない。


 アルフィードはそう言いたかった。


 貴族街とはいえ、鄙びた区域に出入りするのだから、訳ありの輩ではないのか。


 店内の雰囲気からそう感じたアルフィードだったが、それ以上は言えなかった。


 それを言ってしまえば、自分は貴族街にも入れなかった村民だ。身分から言えば、アルフィードの方が下位になるだろう。


 言葉を詰まらせるアルフィードの心情を、側にいたディルクが察した。ディルクも稽古場で鍛練していて、シンにも指導を仰いでいる。


 ディルクはリーサスから、シンを知った経緯を聞いているので、アルフィードの懸念に思い至ったのだ。


「爵位を持つ家でなくとも、騎士にはなれるのですよ」


 貴族街に出入りできるのは、爵位を持つ貴族や親類だけではない。


 貴族街で商いを営む者達も、爵位はなくとも貴族街に出入りし、住居を構える者もいる。


 オリビアの騎士団に所属する団員は、シンが来るまでは全員爵位持ちの家だったので「騎士団員は爵位持ち」とアルフィードが思っていると考えたのだ。


 ディルクの想定は的を得ていた。


「違うのですか?」


 驚くアルフィードにディルクが頷いた。


「騎士団を受け持つものが許可すれば、誰でも騎士になるのは可能です」


「シンの入団は私が認めたから。……リーサスがうるさすぎて根負けしたってのもあるけど。うちもシンのおかげで応用の幅がきくようになったから、結果オーライってとこかな?」


 ディルクとオリビア、二人の話しを聞いて、驚きで声を失っていたアルフィードだったが、理解すると視線と肩を落とした。


「そう、ですか……」


(ん?)


 ……と、オリビアがいつもと違うアルフィードに気付いたのはこの時だった。


 何事も淡々とこなし、感情を表だって露わにしないアルフィードにしては、シンへの嫌悪感を丸出しにしている。


 これまで接点は、夜の小道具店でしかなかったはずだ。


 一度会っただけでアルフィードがこんなに厭うなんて。と、オリビアは意外そうに友人を見ていた。


 話の区切りがついて、その場は一応のおさまりを見せた。


 それからも、シンに対するアルフィードの対応は他の団員と明らかに異なっていた。


 接触することは少ない中、嫌悪感を隠そうともしない。


 胸の内に思うものがあっても、何事もそつなくこなしていたアルフィードからは考えられない対応だった。


 ……と言うことは、それほどシンを嫌っていると言うことだろう。


「アルが明らさまに人を嫌うのって、珍しいね」


 何気なくつぶやいたオリビアの言葉に、アルフィードは驚きの表情を見せた。


「嫌う?」


「違うの?」


 アルフィードは少し考えたあと、ふるりと頭を振った。


「よく、わからない」


 アルフィードはオリビアに言われて、自分がシンに対して嫌悪感露わの行動をとっていたのだと気付かされた。


 苛立ちを感じていたが、それが顔に出ていたとは思わなかった。


「お前って、何か怖いな」


 それを、まさか当人にも言われるとは思っていなかった。


 オリビアの側仕えであるアルフィード、オリビアが統率をとる騎士団の一員であるシン。


 どうしても接点が増えてしまう中、シンはアルフィードにも他と同じ態度で接していた。


 アルフィードは気付いていなかったが、当人に対しても嫌悪感露わの態度をとってしまっていた。


 そうした行為からの、シンの言葉だった。


 苦笑交じりに告げられたシンの言葉に、アルフィードは少なからず衝撃を受けた。


 これまで、そうした言葉を告げられたことがなかったので、驚いて何も言えなかった。


 仕事の都合上、平日は夕方から夜、もしくは休みの日に、請われた時、都合がついた時に騎士団に顔を出す、不定期要員である彼、シン。


 くったいない態度で誰とも打ち解けられるが、言動はそつが無さすぎて実体がつかめない。


 時折、聞かれたことで答えたくないことがあると、のらりくらりと交わして返答をせず、聞いた側も本質に触れてないまま煙に巻かれていると気付いていない。


 人のいいように見えて、自分を見せないシンに、アルフィードは胸のざわつきを感じてならなかった。


 そうして過ごしていく中、セクルト貴院校に関係する礼儀作法の指導問題が生じ、アルフィードは二月ほど実家で過ごすこととなる。その時分に幾度か見かけた、妹の伴魂、ネコ。


 その空色の瞳がシンを連想させた。


(だから……)


 彼の瞳がネコを連想させたから、無意識のうちに嫌悪感を抱いてしまったのだろうとアルフィードは思い至った。


 しかし今となっては、ネコを連想させるから彼に苛立ちを覚えるのか、彼を連想させるからネコを厭うのか。


 アルフィードは自分でもわからなくなっていた。




閑話的な話になりました。

アルフィードとシンの関係です。


今日中にもう一話、掲載予定です。

途中まで書きあげてますが、長くなったので、分けようかどうしようか考え中。

次回、やっと核心部に触れられます…。(ちょろっとですが)

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