60.第一王子の側仕え 3
(……「見つけた」?)
告げられた言葉に、少々の違和感を覚えたが、いつもの「世話係交代」なのだろうと思っていた。
なぜか愉快そうに、口元が緩みっぱなしのルディを怪訝に思っていたが、深くは考えていなかった。
紹介しようと連れられたハロルドの部屋いたのは。
蜂蜜色の、綿菓子のようにふわりと緩やかに波打つ艶やかな髪の少女だった。
白い肌に藤色の瞳。
背の中ほどまである髪を、うなじで一つにまとめている。
制服からセクルト貴院生だとわかった。
世話係だと聞いて「なぜ学生が」と思ったが、深くは考えなかった。
ハロルドの、少女への懐き方に驚きつつ「だからか」とも納得した。
ハロルドが少女に懐いた経緯が気になったが、たずねるほどの興味はなかった。
これまでの世話係の中にも、ハロルドに懐かれていた者はいる。
少女はルディにも自分たちにもきちんと敬意は払っているし、アラは目立つが、最低限の礼儀作法も成されている。アラは学生なのだから仕方ない。背恰好から一学年だろうと思えた。
白い上着を見て「制服が変わったのだろうか」と考えた程度だ。
オリビアの側仕え、アルフィード・エルドの妹である点以外、全く気にしていなかったのだ。
ルディが伴魂の部屋に行く機会が増えて、それに気付いて共に部屋に付き添って――そこでルディと少女――フィーナ・エルドの話を……世間話と思しきやりとりを耳にするまで。
彼女はルディと普通に話をしていた。
普通に。
初めジェイクは、二人の会話に聞き耳を立てていたわけではない。
ルディの様子を伺いに、ハロルドの部屋に共に赴いたが、二人の話しに興味はなかった。
何気なくつぶやいたルディの疑問が耳に届き、それに対してジェイクも答えを出せず考えていると、フィーナが間髪いれずに「それでしたら」と一つの案を示した。
それはルディもジェイクも思いもつかないものだった。
気負いもなく告げられた言葉に、ジェイクは驚き、ルディは興味を持って。
ルディはフィーナの案を試して成果を得た。
その時から、ジェイクはフィーナを注視するようになった。
ルディはハロルドの部屋でフィーナと世間話をしていた。
世間話を交えて、世情とそれ相応の知識がなければ成り立たない話を成し得ていた。
一介の学生の知識ではない。
フィーナの素性を探る中で、彼女の普通でない様々なものを知ることになる。
彼女の伴魂、セクルトでの成績、ザイル・ベルーニアとの親しき関係、第二王子の同窓生。
そして。
「市井出身で一学年からスーリング祭に参加……?」
時折、秀でた市井出身者がセクルトに入学するが、一学年からスーリング祭に参加した者などいない。
興味ない者には単なる事実としか映らないが、能力の高い人材を欲している者にとっては偉業として映った。
ルディに仕えるジェイクは優秀な人材は欲しいし、ぜひとも味方に引き入れたい。
しかし、相手はオリビア王女を敬愛する、カイル王子の同窓生。
ハロルドの世話をしているが、ルディ殿下より二人に親しみを覚えているだろう。
ルディがフィーナを気にいっていると感じた時、ルディをどう思っているかとたずねたことがある。オリビアを敬愛していると告げたフィーナの返事は、思った通りのものだった。
その時は、フィーナの素性を知らなかったため、確認のために聞いただけだった。
……それが今となっては悔やまれる。
質問、話の運び方次第で、ルディを最たる者と見ていると答えさせることもできたのだ。
その答えをもって、自分たちの側に引き入れることもできたはずなのだ。
「スーリング祭、ですか」
向かい側で静かに飲み物を口にしていたダンケットが、抑揚のない声で呟いた。
実は…。
第一王子、ルディの側仕え、ジェイクの名前、こっそり(しれっと?)変えてます…。(汗)
もう出ている人物と、かぶっちゃってたので。
「同姓同名もいるんだから、同名も有りさ!」
…とも考えたのですが、後々、混乱する可能性もあるかも。
…と思って、変更しました。
いつも名前は、なかなか思いつかないのですが、側仕え2人はスルっと浮かんできて「お〜。」と、嬉しかったんですけど。
すぐ思いつくのは、注意が必要ですね…。