59.第一王子の側仕え 2
「それはそうだけど――」
『やっぱ経口摂取か? できなくはないが、どんだけの量、必要なんだか――』
「えと、だからね?」
思案を巡らすマサトを、フィーナが「ちょっと待って」と制した。
『何だよ。うるせーな』
「だから。ハロルドだけじゃなくてもいいんじゃない?」
『あん?』
「殿下が一緒じゃだめなの?」
『関係ないだろ。意味ないところへ行くわけないし。でっちあげるにしても、何かないと――』
「理由は作れるんじゃない?」
『――何?』
「マサトが言ってた魔力の高いブルーク湖って、温泉保養地で有名なラープルの一角でしょ?」
首を傾げながら告げるフィーナを見ていたマサトは。
『――っっ!!』
フィーナの言わんとしたことを察して、声ない叫びをあげ、飛び起きたのだった。
◇◇ ◇◇
「なんなんだ、あれは」
ハロルドの部屋に設えたソファに座って、ジェイクは両手を組み合わせて両膝に肘をつき、組み合わさった両手に額を付けて俯き、そうこぼした。
向かいのソファにはジェイクと同じルディの側仕え、ダンケットが座っている。
二人の間には応接台があり、先ほど使用人が二人にお茶を出して下がったところだった。
ジェイクの側では、子供姿のハロルドが横になって、健やかな寝息をたてている。
ジェイクにはハロルドの子供の姿を快く思えなかったが、ルディが「日常は子の姿で」と決めたから仕方ない。
ジェイクにとってハロルドの雄々しい成獣姿は、ルディへの象徴との思いがあった。
ハロルドを畏怖する=ルディにも王子として畏怖する。
ジェイクの家、アズマイヤ家は公言しないものの、親族内ではルディが次期国王にふさわしいとみていた。
ジェイクも中児校くらいのころから、そう思うようになっていた。
ジェイクとダンケットは、幼少時はルディの遊び相手として、年を経て学友として、さらに年を経て側仕えとして、常にルディと近しく行動を共にしてきた。
親族の中には、利権絡みからルディを国王にと思っている者もいる。
ジェイク本人としては、利権云々関係なく、ひいき目を抜きにしても、ルディこそ王の資質があり、統治者にふさわしいと思っていた。
正妃の子、王女オリビア。
接する中で彼女にも、相応の資質があるとわかるが――ルディには及ばない。
年の差を考慮し、十歳のルディが、十五歳のルディがと、同じ年の次期の主とオリビアを比べてみても、統治者としてはルディがふさわしいと思えた。
しきたり、慣例、風習から、生まれ順、性別問わず、正妃の第一子に第一王位継承権が与えられると理解している。理解しているが、それでも、ルディの方が秀でていると、ジェイクは思っていた。
勉学、身体的能力も秀でているが――最たるものは、獅子の伴魂だ。
獅子は伴魂とするのが困難とされている。
狂暴な伴魂を制御し、主だけでなく周囲にも被害を与えず、しかし有事には矢面に立って国の者を護る――。
ルディの伴魂、ハロルドは、まさしくそうした伴魂だった。
側仕えであるジェイクは、ハロルドに懐かれている一人である。
伴魂は本来、主以外、気を許さない。
ハロルドは少々変わった生い立ちで、ルディの伴魂となった幼いころから、主以外の世話を受けていた。
それはルディの母、第二王妃の国では普通のことだという。
王子の伴魂の為、世話をする者、触れられる者も限られている。
ジェイクは限られた一人だった。
ルディにとって特別なのだとの意識も、誇りとして胸の内にあった。
ハロルドの世話係は、定期的に入れ替わる。婚姻適齢期を迎え、伴侶を得た関係で暇をもらうのだ。
初めルディから「新しい世話係を見つけた」と聞いた時は、入れ替わりなのだろうと思った。