58.第一王子の側仕え 1
◇◇ ◇◇
フィーナはセクルトの休みの日を中心に、ハロルドの世話をした。
平日も時間の都合がつけば、訪問するようにしていた。
ある時、ハロルドを世話していると、ルディの側仕えのジェイクが、ルディに関して遠回しに尋ねたりもした。
フィーナは内心、悲鳴を上げながら、素知らぬ振りでルディを褒めつつ、さりげなく聞かれた卒業後に関しては、敬愛するオリビアの役に立てたらとの心情を告げた。
(サリア、ありがとう!!)
事前に聞いていたおかげで、下手な回答も動揺もせずにすんだ。
フィーナは胸の内で、サリアに祈りに近い感謝をささげた。
ジェイクもフィーナの返答は想定内だったのだろう。驚く様子もなく「そうか」とどこか残念そうな気配を漂わせながら納得していた。
ハロルドの世話は順調だった。
ハロルドは最初と変わらずフィーナに懐いていたし、遊ぼうとせがまれても、大人しくしていてと頼めば、きいてくれる。
フィーナが世話をする時は、ルディもよくハロルドの部屋に顔を出した。
ハロルドの様子伺いが主だったが、世間話にもならない他愛もない話も、次第に交わすようになった。
やがて話はカイルやオリビア、アルフィードなど、フィーナの周囲の人間へと及び始める。
請われるまま、訊ねられるまま答えつつ(話が長くならないように、一つ二つ答えてはその後は「わからない」と通して)、そうした話の中で感じたのは、ルディが自身の妹と弟に関して知らない点が多いことだった。
フィーナが話すのは、セクルト貴院生ならば誰もが知りえるものだ。
それを二人に近しいルディが知らない状況に、フィーナは何度か首を傾げていた。
そうした話の中、カイルの話の比率が多くなっていった。
探る風でもなく、警戒する風でもなく。
ルディは自身の弟の話を興味深げに聞いていた。
そうした日々を過ごしつつ、ハロルドの魔力不足対策を考えていたのだが、対策企画担当のマサトはお手上げ状態だった。
手段を選ばなければ、手だてはいくらでもある。
手っとり早いのは、ハロルドを魔力溢れる土地に、定期的に連れていけばいいのだ。
問題は、箱入り伴魂のハロルドをどのように連れ出すかだ。
お忍びだとしても、ハロルドだけを何かしらの名目で連れて行くにしても、うまくいく策が思い浮かばない。
頭を抱えて唸るマサトに、フィーナが首を傾げつつ「ねえ」とたずねた。
「連れてくの、ハロルドだけじゃないと、ダメなの?」
世話を終えて寮室に戻ってから、ベッドに仰向けに寝転んで、お手上げとばかりに大の字で寝るマサトに、フィーナが声をかける。
たずねた主に、マサトはうろんな眼差しを向けた。
『ハロルド連れてかないと、意味ないだろ』