57.王の子の事情 10
譲れない。譲りたくない。
ルディが、ルディの周囲が動くのはまだ先の話だろう。
フィーナを観察し、素性や人柄を探り、ルディの対応を確認してのはずだ。
マサトは時間が欲しいと言っていたが。
「――サリア」
心配そうな表情で自分を伺うサリアに、カイルは声をかけた。
母は「正妃様、オリビア様に迷惑をかけないように」と事ある度にカイルを制していた。
本心だろうが、その奥にある、母が決して口にしない思いを、カイルは年を経るごとに感じ取るようになっていた。
正当な第一後継者であり、血筋も家柄も申し分のないオリビア。
彼女を正当な後継者だとカイルやカイルの母が認めることによって、カイルは後継者の地位を望んではいないのだと、暗に公言していた。
母である第三王妃は、心からオリビアが正当な後継者だと思っているだろう。
その思いに一片の曇りもないだろう。
――嘘いつわりのない思いだろうが。
そう公言することで、我が子を後継者争いの矢面に立たないようにしたのも、また事実だ。
時期国王となる可能性が最も薄い子に、他の王の子と比べてどれほどの敬意が払われるだろう?
――ルディとオリビア、他の王の子より軽んじられたとしても、第三王妃は甘んじて受け入れた。軽い嘲笑を受けるにしても、それは他の王の子と比べてのことで、他の貴族籍の子と比べた侮蔑ではない。
その程度の侮蔑なら甘んじて受ける。
常に命を狙われる、その恐ろしさに比べたら。
母がそう考えていると、カイルも察している。
セクルト入学の際、首席でなかったと明かしても(対外的な部分もあって、表向きは首席となっている事情も話した)「情けない、ふがいない」と叱咤することはなかった。
うつむくカイルに「……まあ」と驚いて、首席のフィーナについて聞いていた。
その頃のカイルは――今振り返ると、頭を抱える素行と思想保有者だったが、母はそうしたカイルも受け止めて「いい目標ができたわね」とくすくすと笑っていた。
そう告げた母に、あからさまに顔をしかめたのを覚えている。
……後に、母の言葉がその通りだと思い至った。
フィーナは……本人は気付いていないだろうが、様々な面でカイルの意識を変えていった。
スーリング祭の準備、魔法の授業、アールストーン校外学習の準備時、校外学習時。
フィーナと接して改めて知った。
同年代に自分と考えが近しい者が、周囲にいなかったことに。
これまではカイルが「5」の事を告げても、理解できる者がおらず、話を進めるには「1」から説明して、それを理解できた者としか会話が成り立たないことがままあった。
しかしフィーナには「1」からの説明は必要なかった。
瞬時に理解して、話が進む。
――ただ。
フィーナが「5」の話から「8」の話にとんだりすると、ついていけなかったが。
自分より知識のある人が側にいると、感化されて自身の成長につながっていると感じていた。
母が言っていた「目標」は、そうした面も指していたのだろう。
子であるカイルから見ても、あどけなさ、天真爛漫さを感じる母である。
フィーナと気が合うだろうなと、感じてもいた。
フィーナの薬茶を気にいるだろうとも、思っていた。
そうしたフィーナとの繋がりを絶たれたくなかった。
もう。
言われるまま行動するだけの自分ではいたくなかった。
声をかけられ、怪訝な面持ちのサリアを正面から見て、カイルは口を開いた。
「宰相――ガブリエフ・スチュードと面会時間をとってくれないか。
フィーナの件で、相談したいことがある」
自分のことは、自分で決める。
そのためにも。
できうる限りのことを、しておきたかった。
連日更新できなくてすみません。
時々、息切れ状態になります。
筆休め期間に、登場人物の行動が定まってきます。
思ってもない行動をとることも、ままあります。
今回のカイルもそうです。
母の性格、ガブリエフとの面会考慮。
そうした部分を書くことになるとは、思ってませんでした。(苦笑)




