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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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56.王の子の事情 9


 逆にサリアには普通に話し、カイルには敬語や「殿下」と呼ぶフィーナに違和感を覚えたほどだ。


 同年代で忌憚なく話を出来る存在は、フィーナとサリアが初めてで、変に気を使わずにすむ関係が、カイルには心地よかった。


 スーリング祭では、ルディから思わぬ叱責を受けた時、フィーナに助けられた。


 カイルは幼いころからルディに畏怖を感じていた。


 想定外の叱責を受けると、体が委縮してしまう。


 スーリング祭でルディからの非難を受けた時も、体が硬直して、頭が真っ白になっていた。


 そんなカイルの手を、フィーナは握り締めた。心情は知らなかっただろうが、気遣うフィーナに、カイルも気を取り戻してルディに答えられたのだ。


 クラスメイトとしてのフィーナは、想定外の事項を起こす頭を悩ませる存在だったが、同時におもしろくて目が離せない存在でもあった。


 フィーナは自分の言ったことは忠実に守った。そうした信念も見受けられた。


 否を認めれば素直に謝り、他人の称賛すべきものには率直な賛辞を送った。


 裏表ないフィーナの行為は、カイルの興味をひいた。


 貴族籍の人間と接する時は、裏の思惑を常に考え注意している。


 そうした注意をせずにすみ、片肘をはらない気楽さを、心地よく感じていた。


 ――そして。


 アールストーン校外学習で。


 自分を庇ったフィーナを見た時。


 ――あの時。


 自分の気持ちを、自覚した。


 ただ単に、人の死を目にするのが恐ろしかったのではない。


 フィーナという存在が消える――。


 恐怖と絶望と――奪われた怒りを。


 それらの感情を、カイルは身の内に抱いた。


 友人に対して抱く感情と異なると、感じてはいた。


 感じていたが、その後も気付かないふりをしていた。


 その感情が何か。


 ――わかっている答えを認識したところで、つらいだけだとわかっていた。


 気付いているが認めない。


 気付いているが、その感情に関して考えない、フィーナのことも、必要以上に考えない。


 無意識のうちにそうしてやりすごしていたところで、アールストーン校外学習事件に関する話の場が設けられた。


 フィーナの立場が危ういと知ると、自分に出来ることは何でもしたいと思った。


(「お姉ちゃんにも、迷惑、かかちゃうもんね」)


 フィーナにそう、言われて。


 フィーナが口にするまで、アルフィードの危険を全く考え付かなかった自分に、カイル自身驚いた。


 驚いて、困惑した。


 アルフィードへの思いと、フィーナへの思い。


 二人への思いに混乱しつつ――結局、その感情について考えないように過ごしていたところへ、今日のルディの訪問だ。


 目の前で、ルディに手を引かれて連れて行かれたフィーナを見て。


 ――胸を締め付けられる思いを感じて。


 近寄りがたく、けれど兄として慕いたいルディの態度への衝撃はそれほどなく。


 それより。


 フィーナを見て、顔をほころばせたルディ。


 フィーナの手をとって連れて行ったルディに衝撃を受けた。


 ――自覚するには、それで十分だ。


(――フィーナ……)


 胸の内で名を呼ぶだけで、彼女を考えるだけで、胸が熱くなる。


 フィーナを異性として好意を持っていると、はっきりと自覚した。


 自覚したら自覚したで、ルディとフィーナの行動を思い出すと、胸が苦しくなる。


 フィーナの顔も、まともに見れなかった。


 アルフィードと新人騎士のやり取りを見た時は、衝撃を受け、困惑したが、仕方ないと諦めがあった。


 だが。


 フィーナに関しては……。


(嫌だ)


 フィーナが他の誰かとなど、考えたくもない。






カイルの気持ちです。

もう少し続きます。

アルフィードへの思い、フィーナへの思い。

気持ちの変遷をわかっていただければと思っています。

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