54.王の子の事情 7
信じていたことの何が確かで、何がそうでないのか。
――昔の感覚が、甦る。
一時期、カイルにはそれがわからず、混沌とした思考に捕らわれていた。
(綺麗な伴魂ね)
初めてアルフィードと会った時。
カイルが王子と知らないアルフィードが、目と顔を輝かせてカイルの伴魂を称賛した。
彼女の表情とその後話した内容から、御世辞は微塵もない、心からの言葉だと知って――カイルは胸が熱くなった。
これまで、カイルの伴魂を認めてくれる者などいなかった。
兄の伴魂と比較して、称賛の言葉を口にしながら、言葉の裏に「しかし頼りない」と匂わせていた。
当時のカイルは幼かったが、裏に含まれる感情は感じていた。
暗に含む彼らは、そうした感情を隠そうとしなかったのだ。
アルフィードの心からの称賛と接して、カイルはそれまで感じていた不信感の正体を知った。
それから本音と建前で接してくる輩を、ある程度判別できるようになったのである。
アルフィードには感謝している。
教鞭で指導されることのない、対人の術を学ぶ機会を得たことに。
何より――自身の伴魂に、心からの称賛を贈ってくれたことに。
カイルの伴魂は、兄の伴魂と比較されるのが常だった。
「第一王子の伴魂は雄々しい。第二王子の伴魂は美しいが頼りない」
そうした小馬鹿にした声を浴び続けていた。
幼いカイルは、言葉の意味はわからずとも、向けられた感情は理解していた。
悔しいと、母に泣きついたこともある。
その度に母は、泣くカイルをあやしながら「言いたい者には言わせておきなさい」と言うだけだった。
そうした態度をとった者を罰するわけでもなく、咎めることも注意することもない。
そして言うのだ。
「正妃様やオリビア様に迷惑をかけるような行動は、決してとらないように」
それがどういった行為をさしているのか、カイルにはわからなかった。
――正直、今もわからない。
わからないが、話の流れから察するに「何を言われても何もするな」とのことだろうと思って、気付かないふりを続けていた。
続けながら、何とも言えない黒く重い何かが、胸の奥で育っているのも感じていた。
徐々に大きくなる感情を持て余している時に、アルフィードと会って、素直な賛辞を得て。
――鬱々とした感情が、霧が晴れるように消え去った。
最初は驚き。受けた称賛へのくすぐったい恥ずかしさと嬉しさ。胸をはれる誇らしさ。
そして。
「伴魂に、優劣などないわ」
その言葉を聞いて。
カイルは理解した。
ずっと。
ずっと。
ただ、認めてほしかったのだと。
主のひいき目を差し引いても、カイルは自身の伴魂を美しいと思っている。
美しいとの声は幾度も耳にしている。
気付けなかったが、素直に称賛した者もいたのだろう。その声はいつも「美しいが」とかぶせるように唱える者の声で、カイルの中でかき消されていた。
美しい伴魂なのだ。
称賛される伴魂なのだ。
雄々しいが何だ。
強さが何だ。
父上の――陛下の伴魂も美しいではないか。
雄々しさでなく、美しさから言えば。
(俺の伴魂が、一番陛下に似つかわしい――)
そう、思うのに。
母はいつも周囲の機嫌を伺っている。
周囲を気にして、出過ぎた行動をとらないようにとカイルを諭す。
いつも。
いつもいつもいつも。
注意ばかり。
過去振り返りが多くて、申し訳ないです。
過去のその時のカイルの心情、今となってわかる気持ちを語ります。




