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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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54.王の子の事情 7


 信じていたことの何が確かで、何がそうでないのか。


 ――昔の感覚が、甦る。


 一時期、カイルにはそれがわからず、混沌とした思考に捕らわれていた。


(綺麗な伴魂ね)


 初めてアルフィードと会った時。


 カイルが王子と知らないアルフィードが、目と顔を輝かせてカイルの伴魂を称賛した。


 彼女の表情とその後話した内容から、御世辞は微塵もない、心からの言葉だと知って――カイルは胸が熱くなった。


 これまで、カイルの伴魂を認めてくれる者などいなかった。


 兄の伴魂と比較して、称賛の言葉を口にしながら、言葉の裏に「しかし頼りない」と匂わせていた。


 当時のカイルは幼かったが、裏に含まれる感情は感じていた。


 暗に含む彼らは、そうした感情を隠そうとしなかったのだ。


 アルフィードの心からの称賛と接して、カイルはそれまで感じていた不信感の正体を知った。


 それから本音と建前で接してくる輩を、ある程度判別できるようになったのである。


 アルフィードには感謝している。


 教鞭で指導されることのない、対人の術を学ぶ機会を得たことに。


 何より――自身の伴魂に、心からの称賛を贈ってくれたことに。


 カイルの伴魂は、兄の伴魂と比較されるのが常だった。


「第一王子の伴魂は雄々しい。第二王子の伴魂は美しいが頼りない」


 そうした小馬鹿にした声を浴び続けていた。


 幼いカイルは、言葉の意味はわからずとも、向けられた感情は理解していた。


 悔しいと、母に泣きついたこともある。


 その度に母は、泣くカイルをあやしながら「言いたい者には言わせておきなさい」と言うだけだった。


 そうした態度をとった者を罰するわけでもなく、咎めることも注意することもない。


 そして言うのだ。


「正妃様やオリビア様に迷惑をかけるような行動は、決してとらないように」


 それがどういった行為をさしているのか、カイルにはわからなかった。


 ――正直、今もわからない。


 わからないが、話の流れから察するに「何を言われても何もするな」とのことだろうと思って、気付かないふりを続けていた。


 続けながら、何とも言えない黒く重い何かが、胸の奥で育っているのも感じていた。


 徐々に大きくなる感情を持て余している時に、アルフィードと会って、素直な賛辞を得て。


 ――鬱々とした感情が、霧が晴れるように消え去った。


 最初は驚き。受けた称賛へのくすぐったい恥ずかしさと嬉しさ。胸をはれる誇らしさ。


 そして。


「伴魂に、優劣などないわ」


 その言葉を聞いて。


 カイルは理解した。


 ずっと。


 ずっと。


 ただ、認めてほしかったのだと。


 主のひいき目を差し引いても、カイルは自身の伴魂を美しいと思っている。


 美しいとの声は幾度も耳にしている。


 気付けなかったが、素直に称賛した者もいたのだろう。その声はいつも「美しいが」とかぶせるように唱える者の声で、カイルの中でかき消されていた。


 美しい伴魂なのだ。


 称賛される伴魂なのだ。


 雄々しいが何だ。


 強さが何だ。


 父上の――陛下の伴魂も美しいではないか。


 雄々しさでなく、美しさから言えば。


(俺の伴魂が、一番陛下に似つかわしい――)


 そう、思うのに。


 母はいつも周囲の機嫌を伺っている。


 周囲を気にして、出過ぎた行動をとらないようにとカイルを諭す。


 いつも。


 いつもいつもいつも。


 注意ばかり。





過去振り返りが多くて、申し訳ないです。

過去のその時のカイルの心情、今となってわかる気持ちを語ります。


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