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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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53.王の子の事情 6


 ルディ本人も周囲も、権威に準じる節がある。


 その面々の中で、興味本位でフィーナが取りたてられたら、一庶民でしかないフィーナは気分次第でつぶされる可能性は大いにあり得る。


 そうした状況を、サリアは危惧していた。


 サリアの心配は、カイルも想像できた。


 それはないだろうと、カイルは思っている。


 ――興味本位で取り立てたりはしないだろう。


 兄の気概、性格をカイルは知っている。


 その点は心配しなくてもいい。


 ……そう話せればいいのだろうが、カイルには言えなかった。


 ルディが取り立てるのならば、興味本意ではない。


 重用したい。


 そう、本気で思った時だ。


 側に置く時は自分の考えを押し通すのではなく、周囲を納得させた上で成されるだろう。


 フィーナにはハードルが高すぎてありえないと思いたいが――断言できないのは、昼のルディとフィーナのやり取りを目の当たりにしているからだ。


 カイルに目もくれず、誰か探していたルディ。


 フィーナを見つけると、嬉々として顔をほころばせた――。


 厳格な兄と思っていた。


 その兄とは程遠い表情を、フィーナに向けていた。


 ざわり、と背筋が粟立つ不快さを感じた。


 目の前からさらわれるように連れて行かれたフィーナを、反射的に呼び止めようとしたが。


 ――声は喉奥で留まり、体は微動だにしなかった。


 フィーナが途方にくれていたのは、カイルにもわかっていた。


 なのに。


 何もできなかった自分がふがいなく、自分自身が苛立たしくてならない。


 同時に――カイル自身、自分の感情を持て余していた。


 ……薄々、気付いていた。


 少しずつ、フィーナに対する感情が変化していたことに。


 気付いてはいたが、カイル自身、どういった類の感情になるのか判別できず、考えないようにしていた。


(アルフィード様……)


 フィーナの姉であり、自身の姉の側仕えであるアルフィード。


 彼女に淡い恋心を抱いていると、カイル自身、自覚していた。


 自覚していたが、思いを伝えることも、成就させようと考えたこともなかった。


 思いを告げるだけでも、アルフィードに負担を強いるとわかっていた。


 彼女を困らせたくはなかった。迷惑をかけたくなかった。


 密かに思い続けるだけでいい。


 いずれ、この思いも穏やかな信頼に変わるだろうと、自分自身を思い込ませていた。


 ――オリビアの騎士団で目にした、アルフィードと新入りの騎士とのやり取りには、まいったが。


 穏やかな気性だと思っていたアルフィードが声を荒げ、言い争い――けれど、相手へ向けた切なげな表情は、彼女の思いを露わにしていた――。


 これまで見たことのないアルフィードに驚いた。


 驚きながら、フィーナが話していたアルフィードを思い出し、符合した。


 フィーナが目にするアルフィードは、家族に対する姿だろう。


 気を許し、信頼している相手に向けるものだ。


 そうした態度を新入り騎士にとっているのに――。


(自分に、向けられたことがない)


 わかっている。


 王族の人間に、軽々しい態度がとれるわけがないと。


 わかっている。


 オリビアと自分は違うのだから――本音で話をできるほど、親しくないのだから。


 わかっている。


 新入りの騎士は、アルフィードと同じ市井出身者だから、貴族籍に対するような過度な礼儀作法が必要ないのだから。


 わかっている。


 わかっているが――。


 唐突に、足元が崩れる、心もとない感覚に襲われた。 


 これまで思っていたことが違ったのだとつきつけられて、困惑した。




カイルの気持ちです。ちょっと長くなります。

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