51.王の子の事情 4
オリビア付きとなると、第一王子側(と言っても周囲)が難癖つける可能性があること、カイルの庇護下になると、異性関係を匂わせてしまうこと。
その場にいなかったサリアは、そうした話があったことに驚きつつ、さらに思慮をめぐらせた。
「私は……カイル付きとなるのも、方法の一つだと思うけど」
『だからカイルだと――』
「庇護ではなく、側仕え――もしくは付き人としてよ」
サリアの発言にフィーナだけでなく、マサトとカイルも驚きに目を見開いた。
「そ――そんなの無理だし、そんな身分じゃないよ」
「アルフィード様もオリビア様の側仕えとなってるでしょう?
フィーナの今の成績、珍しい伴魂を考慮して、同じ年で接点のあるカイルが取り立てたとしておかしくないわ。
フィーナはアルフィード様より早い段階で好成績を残している。
初年度からスーリング祭に参加した市井の民として、異例の功績もある。
単に異性として好意を抱いたから取り立てたとは、思われないわ。
そして――ザイル様という、ベルーニア家の後ろ盾も望めるでしょう?」
「ザイル――?」
『……なるほどな』
突然出てきたザイルの名に、フィーナは戸惑い、サリアの考えを察したマサトはため息交じりに納得した。
「オリビア様、第一王子様、そしてカイル――それらのパワーバランスを考えるなら、カイルの側に居るのがベストだと思うわ。
建前だとしてもね。
フィーナがお家の仕事を継ぎたいというのなら、方策は後でも考えられるから。
第一王子についてしまうと、これまでのようには行動できないわ。
オリビア様とカイル――お二人の考えとは違った考えをお持ちの方だから。
特に――周囲の方々がね。
だけどフィーナが、第一王子にお仕えしたいというのなら、止めはしないけれど」
サリアの話に戸惑っていたフィーナだったが、最後の発言を聞くと、反射的に首を横にふった。
そのフィーナの行動に、サリアは安堵に頬を緩めた。
『その件は、王女様とザイルと話してみるよ。
方向性は共有してた方がいいからな。
――こんな大事になるとは思ってなかったんだが。
サリア。助言、いろいろとありがとうな』
マサトに面と向かって礼を言われたサリアは、軽く目を見張った後「私こそ、いろいろお世話になってるもの」と勉学指導の礼を告げた。
『カイルは――フィーナが側仕えや付き人になる噂がたっても……』
言いにくそうに訊ねるマサトに、カイルは緩く頭を横に振った。
「前にも言ったが、俺は今でも庇護でもいいと思っている」
『そうか』
マサトはカイルの返事に、安堵の表情を浮かべた。
嘘でも異性関係の噂がたつと、生涯ついてまわる。
高貴な身分であればあるほど、その傾向は高い。
下手すると、後々のカイルの縁談にも関わってくる。
それを理解したうえでのカイルの言葉だった。
『フィーナもそれでいいか?』
話に取り残されていたフィーナは、戸惑いながらもマサトに頷いた。
心配そうな表情をのぞかせる主に、マサトがため息交じりに『都度都度、どうしたいか確認するよ』と告げた。
受け入れられない状況にならないように配慮すると言う自身の伴魂に、フィーナは「……うん……」と不安そうに頷いて、チラリとカイルをのぞきみた。
カイルは硬い表情で、マサトを見ている。
その後も、話を終えて教室から出るまでの間、カイルがフィーナを見ることは一度もなかった。
短いですが、キリのいいところで。