50.王の子の事情 3
衝撃を受けた表情で、フィーナはカイルを見つめる。そんなフィーナを見たサリアは、カイルの返答に戸惑いつつ、話を続けた。
「フィーナは……どう考えてるの?」
「だからわからないって――」
『その件は俺に預けさせてくれないか』
割って入ったマサトの言葉に、サリアもフィーナもカイルも、驚きの表情を浮かべた。
『今回の件は、俺がフィーナに頼んだことでもある。ハロルド――第一王子の伴魂に遭遇したのは偶然だったが、気になることがあったんだ。同じ伴魂として、見過ごせなかった。俺だけだとどうにもできないから、フィーナに協力してもらったんだ』
「ルディ殿下の伴魂の世話係になったのは……マサトのお願いってこと?」
サリアの言葉に、フィーナもマサトも揃って頷いた。
その返事を聞いたサリアは「そうだったの」とつぶやいていくらか緊張を緩めた。
ハロルドの世話係を、フィーナが喜んで受けたのではないと知って安堵したようだった。
「……私、フィーナはオリビア様付きになると思ってた」
安堵の息をついて、サリアはそうつぶやく。
「アルフィード様はオリビア様の側仕えだから、セクルトに入ったのも、いずれはそうなるためだと思ってた。
だけど……フィーナを見ていると、そのつもりはないんじゃないかって、思えて……。
違う?」
フィーナを見てたずねるサリアに、フィーナは口元を引き締めて頷いた。
「セクルトに入ったのは、マサトが珍しい伴魂だからって、仕方なくだったから。魔法を覚えて、魔力を制御する方法を身に着けるため」
「卒業したあとはどうするか、考えてる?」
「……お父さんたちと薬屋を続けたい」
「宮仕えや貴族籍の方に仕えるつもりはないの?」
フィーナは首を大きく横に振った。
「恐れ多くて、考えたこともない」
「そう……」
フィーナの答えを聞いて、サリアは思慮をめぐらせた。
「フィーナの考えはわかったけど、誰かとそんな話になったら『オリビア様の元で働けたら』って、言っていた方がいいわ」
「え……でも私、そんなつもり……」
「建前よ。特にルディ殿下が関わる場所ではね。アルフィード様がオリビア様の側仕えだから、フィーナがそうした希望を抱いてもおかしくないし、そうなったらいいなって希望だから、決定事項でもない。家の家業を継ぎたいと正直に言っていた時、ルディ殿下の元に誘われたら、断るのが大変よ?」
「そんな……誘われるなんて……」
「実際、世話係を頼まれているのでしょう? 伴魂様に気に入られてて、ルディ殿下も認めてるなら、そうした話があってもおかしくないわ。
それに、ルディ殿下直々に話があるとも限らないから。
ルディ殿下の機嫌を取ろうと、周囲の人間が声をかけてくる可能性もあるの。
……第二王妃様の周りには、そうした方が多いから。
オリビア様の名前を出していれば、牽制になるだろうから」
ハロルドの世話係が、これほど大事になるとは思っていなかったフィーナは、戸惑い、マサトを見た。
意識下でフィーナの感情に気付いたマサトが、前足で頭をカシカシと掻いて、渋面を浮かべる。
『――王女様にも話してた方がよさそうだな』
「それはもちろん。フィーナの卒業後の話も、相談しておいた方がいいと思うわ。
フィーナの希望で名前を出すだけでは、オリビア様に迷惑はかからないだろうけれど」
『王女様ねぇ……』
マサトがサリアの提言に乗り気でないと、サリアも気付いて首を傾げた。
賛同してくれると思っていた。
「何か、都合が悪い?」
『いや……フィーナの後ろ盾に関しては、俺が正体明かした時、一度話になったんだ』
マサトはその時のことをサリアに話した。




