49.王の子の事情 2
サリアの反応はまるで「ルディに気にいられたら困る」と思っているようだ。
カイルも神妙な面持ちだ。
「ルディと仲良くなったら、私を介したカイルとオリビア様とも仲良しになれるかも」……と、実現は難しいだろうが、そうした図式を思い描いていたフィーナの、想像を打ち砕く反応だった。
「殿下と……仲良くなったら、いけないの?」
ハロルドの件で、ルディとも接する機会が増えるフィーナにとって、サリアの反応は想定外だった。
サリアが何を心配しているのかがわからない。
サリアはちらりとカイルを見た。
カイルはサリアの視線に気付いているのかいないのか、机に置く自分の手に視線を落としたままだ。
顔を上げる気配がないので、サリアがフィーナにおずおずと口を開いた。
「フィーナ。あなたは誰を支持するの?」
「…………え?」
言われている意味がわからなかった。
誰を支持する?
……支持って、なに?
フィーナの驚きはサリアも想定内のことだったらしく、ぽつぽつと言葉を続けた。
「オリビア様、ルディ殿下……そしてカイル殿下。
王女と王子、それぞれの関係が微妙だとは気付いているでしょう?」
サリアの問いに、フィーナはカイルとちらりと見て、小さく頷いた。
校外学習の一件で、王位継承権にまつわる話は聞いていた。
「これまでの慣例にならえば、オリビア様が伴侶を迎えて王位を継ぐのだけれど、第二王妃様は第一王子が王位を継承する国の出の方だから、そうしたことも考慮すべきだと訴えていらっしゃるの。ルディ殿下も才能あふれる方だし、第二王妃様も独自の勢力を伸ばしていらっしゃる。正妃様は……そうした駆け引きがあまり上手でない方のようなの。その正妃様を支えているのが、カイル殿下の母君、第三王妃様よ。今はまだ、陛下も御健在で継承問題は先の話だけれど。
第一王子――ルディ殿下はこれまでの慣例を覆そうとしているのだから、何かしら準備はしているはずよ。
誰を支持していると明言はしなくていいし、差し迫った状況になるまで口にしてはダメ。だけど……誰を支持するか、胸の奥底でもはっきり決めておかないと、いざという時に曖昧な態度をとったり、その場で答えを求められたりした時。うまく対応できないと、フィーナ自身が危うくなるわ」
サリアが話す内容は緊迫したものだった。
だけど。との思いが拭えない。
「私……貴族でもない一庶民だよ……? そんな、誰を支持しているかなんて……」
「市井出身者だからこそ、気を付けて欲しいの。
フィーナには家の後ろ盾はないわ。
聞いてはいけない話を聞いた時、誰を支持しているかによって、対応は変わってくる。
とにかく。今は臨機応変に対応しないと……」
「そんなこと言われてもわかんないよ!」
ハロルドの世話係になるのに、王位継承権に関わる話が付随するなど、考えてもいなかった。
せいぜい、第一王子への対応をヘマしないように考えていたくらいだ。
不安を募らせたフィーナは、助けを求めるようにカイルを見た。
「そんな心配、するほどでもないだろう」
――そうした返事を期待していたのだが……。
フィーナの視線に気付いたカイルが、つと顔を上げてフィーナを見た。
切羽詰まった表情を浮かべるフィーナを見た後、ふいっと顔を背けて「……サリアの、言うとおりだろうな」と告げる。
カイルの想定外の答えに、フィーナは息を飲んだ。
カイルの返答によって、サリアの懸念に現実味が帯びる。




