48.王の子の事情 1
◇◇ ◇◇
サリアとカイルへの説明は、ハロルドの部屋で過ごしたより疲れた。
ハロルドの世話を
「魔力枯渇してるみたいだから、打開策探して世話役やってみます♪」
……などと話せるわけもない。
伴魂に関しては親族でも踏み込めない部分が多々ある。
王子の伴魂の事情を話せるわけもなく、フィーナはどう説得すればいいのか、窮地に立たされていた。――主にサリアの説得を、だが。
「ルディ殿下とどこに行ったの」「どこで知り合ったの」「なぜ今日来られたの」……など質問攻めにあった。
結局、サリアが言いたいことは。
「事情を全て話せ」
――だ。
「えぇぇぇっとぉぉおおお~~??」
明後日の方に視線をさまよわせつつ、サリアと目を合わせないようにしながら、フィーナはどう話せばいいのか、思考を巡らせていた。
ハロルドの魔力枯渇状態を省いて、昨日のあらましを話すと、静かな苛立ちをたたえていたサリアの怒気が膨れ上がった。
「なぜ昨日話してくれなかったの」
「だ――、だって! まさか今日殿下が来られるなんて、思ってなかったんだもの!
今日はサンザシの実を使いの方に渡すだけと言われていたから!
世話係も、しばらく考えてから決めるって話だったの!」
「それでも、ルディ殿下と会われたと、昨日話してくれてもよかったじゃない!」
『悪い。それは俺が止めたんだ』
フィーナの足元にいたマサトが、トンと軽い身のこなしで机に乗った。
フィーナとサリア、カイルの三人は、一つの机を囲んで椅子に座っている。
フィーナとカイルの教室には、他に生徒の姿はない。
護衛騎士二人は、教室の出入り口に控えていた。
『俺もルディ殿下が今日来られるとは思ってなくてさ』
そうため息交じりに呟く。
『フィーナはルディ殿下と会ったことをサリアに話そうとしてたんだ。
俺としては、カイルが一緒にいた方がいいと思ったから。
サリアが知っている情報、カイルが知っているにーちゃんの性格。
個々で憶測話すより、統合した話がいいと思って、放課後、二人に話すよう言ってたんだ。
……まさか昼休みに来て、授業サボらせるとは思わなくてな』
『ハハハハハ。』と渇いた笑いをこぼすマサトは、空寒い苛立ちが見えた。
「そう、なの?」
マサトの話を聞いてたずねるサリアに、フィーナはコクコクと首を縦に振った。
事情を聞いてサリアも納得したのだろう。
目に見えた苛立ちは引いていた。
サリアは落ち着くと、心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫、だったの?」
「ルディ殿下? ……特に何もなかったけど」
伴魂の世話係をしばらくすることになったと、乾いた笑いを交えて話すフィーナを見て、サリアはカイルを見た。
サリアの視線を受けたカイルは、神妙な面持ちでフィーナに向き合った。
「兄上は気難しいところがあるのだが……そう感じるところはなかったのか?」
「気難しい?」
心当たりのないフィーナは首を傾げた。
どういった状況をさすのかとフィーナがたずねると、カイルも困り顔になった。
「どうとは説明できない。フィーナが困ったと感じなければ、兄上に気に入られたのだろう」
「気に入られたって……」
カイルの言葉に、サリアが戸惑いをにじませる。
オリビアとカイルの関係者だからと敵対心を抱かれるより、友好的であったほうがいいと思っていたフィーナは、二人のやりとりに「……ん?」と引っかかった。




