45.第一王子の伴魂 9
意識下の会話で自身の伴魂に助けを求めて、ハロルドに膝から降りるよう促してもらった。
伴魂同士は意思の疎通がはかれる。
ハロルドも、マサトを通じてフィーナが困っていると理解したらしく、膝から降りてくれた。
ハロルドが膝から降りるとすぐに、フィーナは金髪の男性、ダークブルーの髪の男性に最上級の挨拶を送った。
「ジェイク・アズマイヤ様、ダンケット・オズムルド様。
私、フィーナ・エルドと申します」
自分より上級の貴族と初めて対面したときには、何よりもまず最上級の挨拶を送ること。
許しがあるまで顔を伏せたまま、言葉を発してはならない――。
セクルトに入る前、姉のアルフィードから受けた礼儀指導のおかげで、よどみない動作をとれた。
(お姉ちゃん、ありがとー!!)
平等であれとのセクルトの理念の元、学生のうちは関係ないと思いながら、漫然と姉の指導を受けていたが、予期せぬところで役に立った。厳しくつらい姉の指導が、今ではありがたく、感謝の思いがつきない。
まさか学生の時に――それも上位十二貴族に属する二人に接するとは思ってもいなかった。
――王族のカイルとルディと関わるとも思っていなかったが。
「エルド?」
フィーナの名を聞いて、金髪のジェイク、細目のダンケットが顔を見合わせた。
二人が「聞かない名」と首を傾げている。
「セクルト貴院生だ。オリビアの側仕え、アルフィード・エルドの妹になる」
二人の疑念にルディが答えたものの、声が低く機嫌を損ねている節が伺えた。
それがなぜかフィーナにはわからず、顔を伏せたまま、胸の内で首をひねった。
なぜかはすぐにわかった。
「二人の名はすぐにわかったのだな」
「名?」
ルディの言葉に、ジェイクとダンケットが怪訝そうな声をあげた。
フィーナはうつむいているので表情は見えないが、ルディの心情は声色で伝わってくる。
発言を許されておらず、顔を上げる許可も得ていないので、フィーナは身動きがとれない。
なぜ答えないのか、ルディの苛立ちはフィーナにも側仕えの二人にも伝わっていた。
場の雰囲気を読んだダンケットが、ルディに代わって、フィーナに顔を上げること、発言を許した。
ダンケットの発言を聞いて、ルディも状況を把握したようだった。
「……気にすることなどないのに……」
ぼそりとこぼしつつ、眉根をひそめた表情をフィーナに向ける。
顔を上げること、発言を許されたフィーナは、そろりと顔を上げて、面々に視線を向けた。
年上の異性に見下ろされる状況で、フィーナは内心、悲鳴を上げていた。
ジェイクとダンケットは不審な者を見る眼差しで、ルディはなぜか不機嫌な表情を向けている。
ルディが「なぜジェイクとダンケットを知っているのか」と、そのことを気にしているようなので、発言していいか戸惑いつつ、ゆっくりと口を開いた。
「恐れながら……ルディ殿下に伴われて私室に入られたこと、お二人の様相からお名前を判じたのですが……」
入学前の礼儀指導の際、主要な貴族籍の面々の名と身体的特徴、家柄や特徴は叩きこまれていた。
ルディの側仕え筆頭は、ジェイクとダンケットの二人だ。
聞いていた身体的特徴とも符合したので、すぐさま御二方だと判じたのだ。
フィーナの言葉を聞いて、ジェイクとダンケットは状況をすぐさま理解したが、当のルディはすぐに理解できなかった。
フィーナとルディのやり取りを見て、勘付いたジェイクがフィーナを補足した。
「ルディ殿下がいらっしゃったから、俺たちの名を推測できたということか?」
「……はい」
話を聞いたルディの表情が、ぱっと華やいだ。




