43.第一王子の伴魂 7
フィーナの様子に使用人の女性二人も察するところがあったらしく、互いに顔を見合わせて、思案の表情を浮かべた。
互いに困った表情を浮かべつつ、フィーナの様子を伺いながら話してくれた。
彼女らの話からわかったことは次のようなことだった。
曰く、ルディの側仕えの者たちは。
ルディの側仕えの矜持が高く、ハロルドに懐かれるのも「さすが側仕え」的な羨望を受けるのに気を良くしている。
「他の人の目がある前で、側仕えの方より伴魂様に懐かれている風を見られるのは避けた方がいいかと……」
使用人だと言う二人の女性は、市井出身者だった。
フィーナの素性を聞いて驚きつつ、同じ市井出身者というよしみでの助言だった。
ルディの側仕えは貴族籍の者達だという。
将来の役職を約束され、後々ルディとの関わりを確保するために、側仕えとなっているのだろうとも、暗に含んで話してくれた。
(――『面倒くせーな』)
マサトの辟易とした感情を意識下で聞きつつ、フィーナは苦笑して、二人に心遣いに礼を述べ、気をつける旨の返事をした。
二人は自分の仕事を終えると、部屋をあとにする。
後でルディが戻ってくるので、それまでは部屋に残るよう言われた。
子供姿のハロルドを膝の上であやしつつ、フィーナは小さく息をついた。
「とりあえずは……これでよかったのかな」
『今のとこはな』
子供の姿でいたことで、魔力の消費を抑えられているとマサトは言う。
今後、どうするかをマサトが思案しているのが、フィーナにも伝わっていた。
『一番は第一王子の魔力を底上げすることなんだがな』
そのためには魔法の指導も必要となってくるので、そこは難しい。
ハロルドが自力で魔力を調達するしかなくなってくるのだが、現状では難しいとマサトは告げる。
「……っていうか……え? 自分で魔力、調達できたりするの?」
『できなくはない』
断定しない、曖昧な物言いに、フィーナは首を傾げる。
マサトは息をつくと、揺らめかした自身の尾で自分を指し示した。
『俺もそうしてたからな』
マサトの言葉にフィーナはきょとんと目を瞬かせて、意味を理解するまでに数秒の時を要し。
「え!?」
理解すると驚きの声をあげたのだった。
「ど――どうして……」
たずねた言葉には、いくつかの意味が含まれていた。
なぜ、その必要があったのか。
なぜ、これまで話してくれなかったのか。
マサトにもフィーナの困惑は伝わっていた。
『話す必要ないと思ってたんだが』と前置きして、事情を説明した。
『第一に、伴魂となった当初、俺の糧はフィーナの魔力では足りなかったんだよ』
改めて言われると「……そう言えば……」と思い当たる節がある。
マサトとの契約の際、フィーナは魔力を取られ過ぎて倒れている。
マサトも、幼い主が自身の糧を補えないと理解していた。
理解していたが、事情を鑑みて解除も考えられず、結果、自ら魔力を調達するようになった。
『アブルードでも、主の魔力に頼れない時があったからな。そういう時、自分で調達する方法は身に着けていた』
言いながら、マサトは胸の内で思い浮かべたのだろう。
傷つき、疲労漂う女性と、緑白い、ほのかな光りを帯びる地面の情景が伝わってきた。
ぼんやりとした情景がフィーナの脳裏に浮かび、それがどういったものなのか、体の奥底にじわりと滲む力を感じた。
『時々、魔力溢れる土地があるんだ。そこで糧を得ていた』
そこで情景は一度途切れた。
次にフィーナに伝わってきたのは、高い木の枝に寝そべって、くつろぐマサトの姿だった。
のほほんとくつろぐ姿は、先ほどの緊迫感漂う情景と異なり、穏やかな感情が伝わってくる。木々とマサトは、緑白い光を、ゆるゆると受けていた。
(アブルードの時と……私と契約してから……)
最初に見えた情景と、次に見えた情景。
フィーナにはそれがどういった時のものか、漠然と伝わっていた。
そうして思い返して、昔のことと繋がった事柄もある。
契約したばかりの頃。
マサトがふらりと出掛けていたのは、自分で魔力の補給をしていたためだ。
マサトがフィーナの所に来てから。
居ない時の説明です。
ここで明かすことになるとは思っていませんでしたが、書いた当初から考えていた理由でした。