42.第一王子の伴魂 6
「与えるのは一日十粒程度にお控えください」
「なぜだ?」
制限があると思っていなかったのだろう。ルディが驚きの表情を浮かべてフィーナにたずねた。
「ハロルド様にとってはお酒と同じようなものです。取り過ぎは体に良くありません」
「そうなのか」
「それと、できましたら殿下がしばらく身に着けていた物をお与えください」
「身に着けたもの?」
「衣服のポケットに入れておいたり、小袋に入れたものを首から下げておいたり。体近くにあった物を、伴魂様も喜ぶはずです」
「意味があるのか」
「しばらく身に着けていた物に魔力が移ります。伴魂は主の魔力を糧とします。主の魔力が染みた食物は、伴魂様にとって何よりの嗜好品なのです」
「……なるほど」
ルディはフィーナの話に納得しつつ、眉を寄せた。
「なぜそのようなことを知っている?」
「私の伴魂で経験しました。偶然ですが、長らく衣服のポケットに入っていたサンザシの実を与えた際、伴魂がひどく喜びました。その時、伴魂との意識下の会話でわかったのです」
ルディはフィーナの話に理解を示した。
そうした後、本題へと話題が転じる。
「それで、世話係の件だが――」
期待するルディを見て、フィーナは背筋を正し、覚悟を決めて口を開く。
「私も学生の身です。正直、どれほど時間がとれるか、わかりません。
提案なのですが、二週間ほど試用期間を設けて頂けませんか?」
(二週間たったら「やっぱり無理です」――って、断る前提だけど)
胸の内で呟きつつ、フィーナはルディの反応を伺った。
ルディはフィーナの提案に驚いていた。
受けるか受けないかの返事を想定していたので「お試し期間」の話が来るとは思っていなかったのだ。
フィーナの提言にルディは「そうだな」と納得した。
「世話に時間を取られて成績が下がっては、頼んだ私も困る」
そう話して、ルディはふと気付く。
「定期試験はどうだった? 来年のスーリング祭には参加できそうか?」
成績には触れてほしくないフィーナは「う……」と詰まりながらも「……今のところは……」と頬を引きつらせて答えた。
入学試験の好成績は「まぐれと時の運」も通用するが、同じ成績が続くと「実力」となる。
普段は級友も教師も触れないようにしていたので、話題とする場がなかった。喜ばしいことに。
事情を知らないルディはフィーナの答えに驚きつつ、小さく感嘆の息をついた。
「市井出身と言っていたが、賢明な者に師事していたのか?
――そう言えば、ザイル・ベルーニアが同伴者と言っていたか。
オリビアのつながりで学ぶ機会があったのか?」
「っ! そう! そうなのです!」
嘘ではない。ザイルから学んだ事柄もある。――世間話の延長で。
フィーナの答えにルディは納得した。
その後、ルディは秘匿者二人を下がらせて世話係二人を呼び、フィーナに世話の指導を指示し、部屋をあとにした。
世話係の二人は、ルディに一礼して指示を受け、フィーナに作業に関して教え始めた。
世話は食事、室内の掃除、時々ハロルドの洗毛を行うとのことだった。
世話係二人も、しばらくすると部屋から出ていった。
彼女らは世話係専任ではないという。使用人としての仕事の中に、ハロルドの世話があるとのことだった。その世話も、使用人の持ち回りで行われると言う。
「時々、側仕えの方もいらっしゃるけど」
言いながら、話のかたわら、ハロルドとじゃれているフィーナに感嘆の眼差しを向ける。
「あなた、側仕えの方より伴魂様になつかれているのね」
その意味する内容がよくわからないフィーナは「はぁ……」と返事をしながら首を傾げた。
久々の更新です。すみません。
リアルの環境の変化に戸惑ってました。
コロナ。
拡大ひどいですね。
遊びも外食も普段生活の外出も必要外は控えています。
結局は個々人の意識なんでしょうね。
実家に帰ると、妹に「手洗いうがいはちゃんとした?」と毎回言われます。