41.第一王子の伴魂 5
なぜそれを自分にと、フィーナは慄いたが、マサトは息をついた。
(――『自分が楽しただけだ。気にするな』)
セクルトの教室からハロルドの居住区まで、歩くとかなりの距離になるからとマサトは告げた。
マサトは『道具は要所要所設置しているようだ』と言う。
(――『足元が変な感じしただろ。あの時使った』)
途中、足元がふわりと浮く心もとなさを感じた時があった。
納得しつつ、ルディに伴われてハロルドの部屋に入った。それまでフィーナを連れ立った使用人二人は、入室するルディ達に頭を下げて見送る。
寮室ほどの大きさだった。フィーナとサリア、それぞれのスペースとリビングを合わせた広さに見えた。
天井が高く、壁の区切りもないためか、部屋は広く見える。
ハロルドの食事スペースや寝床、ルディがくつろぐ用だろうソファや応接セットもある。
部屋には女性の使用人二人が居て、ハロルドの世話をしているようだった。
二人は入室したルディ達に気付くと、フィーナとマサトを見て目を見開いて驚きを見せたが、すぐに頭を下げて敬意を見せた。
寝床でくつろいでいた子供姿のハロルドは、ルディとフィーナに気付くと、喜んで駆け寄ってくる。昨日の話を実行しているようだとわかり、フィーナは安堵した。
ルディにひとしきり甘えたあと、フィーナにもすり寄った。
そのころにはフィーナもマサトも、ルディに進められるまま、応接セットのソファに腰をおろしていた。
ハロルドはフィーナの膝の上で、喉を鳴らして座っている。
ハロルドの頭部や鬣、背を撫でながら、フィーナはちらりと世話係らしい二人を見て、ルディに目くばせをする。
「頼まれていた物ですが――」
人目がある中、渡してもいいのかとフィーナは含んだ物言いをする。
ルディもフィーナの意図を察して少々考えたあと、世話係の二人に秘匿者二人と交代で退室するよう促した。伴魂が居るとはいえ、フィーナと二人きりの状態を避けたのだ。
退室を促されると思っていなかったのだろう。世話係の二人は驚きを見せつつ、ルディに頭を下げて従った。
一人が退室して秘匿者を手配し、秘匿者二人と入れ替わりで世話係二人が退室する。
秘匿者二人に「ここで見聞きしたものは内密に」と告げてルディは話し始める。
秘匿者二人は頷いた。
「口元は隠さなくてよろしいのですか?」
「必要ない。秘匿者の秘密保持は保証されている。内容を知っても明かしはしない。拷問にも耐えうる者でなければ意味がないからな。訓練は受けている。――口元を隠すと細かな表情がわからないから好きではないのだ」
ルディの発言で秘匿者の「万が一」の時の過酷さに驚きつつ、「そうなのか」とフィーナは知る。
そのフィーナの意識下に、マサトの不快感が流れてきた。
(――『知らないで済むことを見せる必要ないだろ』)
知ったことを隠すのは負担となる。口元を隠して話をしたカイルを評価する心情が、フィーナに伝わってきた。
それからフィーナはルディに促されて、サンザシの実を手渡した。
手の平サイズの巾着袋に入った中身を、ルディが確認する。
サンザシの実に誘われたのか、ハロルドがフィーナの膝からルディの傍らに移った。
喉を鳴らしてルディを見上げ、実を催促している。
フィーナはルディにサンザシの実を与える際の注意事項を告げた。




