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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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23.礼儀作法の指導

※一部修正しました。

・ザイル、フィーナが小児校卒業しても、拉致未遂事件にネコたちが対処したこと、話さない方向になってます。今も「ザイルが対処した」とオリビアは思っています。ネコが話すのも隠してます。必要ない限りその予定です。


「もうヤダ!」


 白い伴魂が準備した、森奥の一角で、いつも椅子代わりに使っている倒木に顔を突っ伏してフィーナが泣き言を口にした。


 そこは伴魂が準備した魔法を学ぶ場所で、フィーナにはよくわからないが、ネコが認めたものしか出入りできないよう、細工が施してある。


 拉致未遂事件から森を怖がっていたフィーナも、用心はするものの、今ではすっかり慣れてしまった。


 中児校は週に五日、通うようになっていたが、フィーナのセクルト貴院校へ入学の話を聞いた中児校側が、週二日の登校でいいと申し出た。


 出席日数も足りている、成績も優秀。


 残り時間を貴院校への準備に充ててほしいとの配慮だった。


 フィーナからすれば「余計なおせっかい」なのだが。


 村からしても貴院校に通う人を輩出したのは鼻高々というところもあるので、全面的に後援したいらしい。


 おかげで、フィーナがアルフィードの指導を受ける時間が増えてしまった。


 今も中児校の帰りなのだが「帰りたくない」と秘密の隠れ家的な森の一角で泣き言を言っているのである。そうして帰宅時間を先延ばしにしていた。


『そんなこと言っても仕方ないだろ?』


 嘆息する白い伴魂を、フィーナはキッと睨みつけた。


「ずっとここに隠れてるくせに」


『俺は関係ないだろ』


 フィーナの言うとおり、白い伴魂はアルフィードと接触しないようにしていた。


 アルフィードが指導員と判明してすぐ、フィーナにはその旨を伝えていたし、フィーナ自身も了承した。


 フィーナもわかってはいるのだが、つらくて、はけ口を求めているところもある。


「公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。爵位順とか覚えないといけないし、今、貴院校にいるそれぞれの人の名前と爵位、入学予定者の名前と爵位も覚えろなんて。貴院校に入ったら爵位関係ないんでしょ? どうして覚えないといけないの」


 セクルト貴院校では、原則、平等にとある。


 身分差に絡んで個人の能力が伸びる可能性を阻害しないようにとの理念だった。


 が、昨年発覚した不敬罪は「平等に」の理念が発端となったところもある。


 フィーナも詳しくは知らないし、アルフィードも教えてくれないが、通常、個対個、対等に接すれば起こりえないものなのだが、そうでない状況になったのだという。


「覚えなさい。自分のためにも」


 アルフィードはそう言うが、フィーナには納得できない。第一、相手の爵位を知ってしまうと、先入観が生まれてしまうではないか。


 フィーナは密かに、アルフィードとオリビアの関係にあこがれていた。身分差を超えての友人関係を成り立たせている。


 アルフィードはオリビアに敬意を払い、オリビアはアルフィードを頼りにしている。


 二人のやり取りは友人としてのもので、気さくで、時折、皮肉も絡めたりする。そうしながらも、互いに信頼を寄せていた。


 貴院校に通うと知っても気負いがなかったのは、アルフィードとオリビア、両者のような関係が望めるのを期待したところもあった。


 知識を持ってしまったら、そのような関係は望めないのではないのか――。


 フィーナの懸念は感じても、事細かな心情まではわからないネコは、嘆息して自身の主に話しかけた。


『覚えて、損はないだろ』


 倒木に顔を突っ伏していたフィーナは、自身の伴魂の言葉に、少しだけ顔を上げた。


「どうして?」


 聞きながらも不満そうに口を尖らせている。


『お前の姉ちゃん、そうしたの、誰も教えてくれないまま貴院校に行ったんだろ?

 爵位とか知らなくてもやっていけるんなら、自分の為に覚えろなんて言わないだろ。

 苦労したから、覚えたほうがいいって教えてくれてんだろ』


 そう言われると「そうなのか」とフィーナも思うところはある。しかし、簡単に認めたくはなかった。


 爵位と人の名前を覚えるにしても、所作やマナーに関しても、覚える範囲が多岐に渡る。


 日常生活につながる部分が多いので、常時、気を張っておかなければならないのもつらかった。


「……自分は逃げてるくせに」


『ってか、ヤバいだろ。お前の姉ちゃん、俺のこと怪しんでるし』


 ――「大事にしないと、許さないから」


 伴魂の力の制御をするための戒めの輪を装着した夜。居合わせた際に、アルフィードから言われた言葉が、ネコの脳裏をよぎった。


 そこには強い意志と――警戒がみなぎっていた。


 指導員として生活する中でも、白い伴魂を注視していた。それは当人も感じていた。


 そうしたこともあり、極力、アルフィードとは接点がないようにしてきたのだ。


「お話しできるの、お姉ちゃんにも言っちゃダメ?」


 告げるフィーナの心境は「お姉ちゃんは大丈夫でしょ?」の気持ちが見てとれる。


 ネコは嘆息して『姉ちゃんの伴魂が話すの、見たことあるか?』と質問で返した。


「ないけど――え。話せるの!?」


『知らねーよ。話せないのなら、俺は相当珍しいって事になる。

 正直、知ってる人間は必要以上に増やしたくない。

 ザイルにばれたのは痛かったけど……まあ、あいつ、変わってるから人に言わないだろうな。言って自慢するより、一人占めして喜ぶタイプだから。

 姉ちゃんの伴魂が話せるとして、隠してるんだったら、こっちも同じことした方がいいだろ。姉ちゃんの伴魂が話せて、話すとこ見せてくれるんなら、こっちもそうしていいけど』


 ザイルは拉致未遂事件があって後、捕えた男に関してフィーナと伴魂が対処したこと、ネコが話すことをオリビアに話さずにいてくれている。


 当初、小児校卒業までは話さずにいてくれるだろうと思っていたが、それは今現在も続いていた。


 ザイルが騎士団を出て、エルド家の従業員となっている状況を見るに、必要に迫られない限り、オリビアにもアルフィードにも話すことはないと思えた。


 ネコの話に「うーん」とフィーナは考え込んだ。


 内容を理解できるようなできないような、そういう気分だ。


「前から気になってたんだけど……お姉ちゃんのこと、キライ?」


 率直な質問に、ネコは答えに詰まった。


『好き嫌いとかじゃなくて。

 ……な~んか怖いんだよな。お前の姉ちゃん。

 ってか、俺が嫌われてるんだよ。自分のこと嫌ってるヤツの側には近づきたくないだろ?』


 だからアルフィードが家にいるときは、帰らないようにしていると言う。


 アルフィードのネコに対する警戒心はフィーナも感じていたので「そっか」と納得した。


「けど、伴魂はどこにいるのかって、すごく聞いてくるんだよね~。

 で、時々帰ってくる、学校では一緒って話すと、家で一緒でなくて大丈夫なのか。って。

 いつもは一緒だけどお姉ちゃんを怖がって家に帰ってこないとは言っといたけど」


 自分がいるからフィーナの伴魂は家に帰ってこない。と聞いたアルフィードは、渋い顔をしていたという。


『面倒だな』


 アルフィードの作法指導がある間は、魔法の教鞭は休みとしている。


 覚える内容が多岐に渡るので、負担を減らす為でもあった。


 フィーナ自身は息抜きに森の一角に足を運んで、魔法の感覚を忘れないように、簡易な魔法を復習はしている。


 こうして森の一角で、自身の伴魂に現状を伝えて状況を共有しながら、アルフィードの礼儀作法、貴族間の常識を学ぶ日々を続けていた。


「背筋を伸ばして、顎をひいて」


「椅子には深く腰掛けず、背もたれに寄りかからない」


「走らない、大股で歩かない」


「大口で食べない、食べる分だけ切り分けて口に運ぶ」


「言葉づかい。敬語を使いなさい」


 ……などなど。


 事細かに、行動する時々に指導が入る。


 勉学に関してもアルフィードが内容を検分したり、質問して理解度を確認していた。


 勉学に関してはアルフィードからの指導はなかったので、そこは基準をクリアしているのだろう。


 そうして三月予定していたところを二月で指導を終えた。

 何でも、他に指導に行かなければならないという。


「申し訳ありませんが、アルフィード嬢に随行したく……」


 フィーナの指導を終える少し前に、ザイルがリオンとロアに申し出た。


 護衛として、側に居たいというザイルの申し出を、アルフィードの両親が断るわけがなかった。


 ザイルとアルフィードが一緒に、次の指導地に赴く馬車を見送った後、計ったように戻ってきた自身の伴魂を見て、フィーナは「どうしたの?」と声をかけた。


 白い伴魂は、ただならぬ疲労感をにじませていた。


『やっぱ怖いよ、お前の姉ちゃん』


 疲れきった声で、呟いたのだった。

 


あれ?

書きたいところが書けなかった?

アルフィードとネコの絡みを入れたかったんですが……次回、書けるかな?

ザイルとアルフィードの件も他の指導も、想定外が増えてます。(汗)


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