40.第一王子の伴魂 4
フィーナは驚いた。
「なぜですか?」
「来ればわかる」
言って、フィーナの手を引いて歩いて行く。
野次馬的に人が集まっていた中、そうした状況となって、悲鳴じみた歓声があがった。
立場上、フィーナとしては振り払うこともできず、抵抗することもできない。
思わず、助けを求めるようにカイルを見た。
カイルはフィーナとルディのやりとりを呆然と見ていた。
状況を理解できないといった表情をしていたカイルだったが、すがるように見るフィーナにハッとして、声をかけようとした。
フィーナも、カイルの呆然とする表情を見て我に返った。
カイルは何も知らない。
フィーナは思いとどまって、口元を引き締めると首を横に振った。
(大丈夫だから)
思いは通じたのか、それとも状況がわからなかっただけなのか。
カイルは踏みとどまって、フィーナとルディを見送った。
マサトも主であるフィーナの足元を歩いている。
(――『バカだこいつバカだこいつバカだこいつ!!!』)
ルディへの苦りきった叫びを耳元で感じて、顔をしかめそうになるのを我慢した。
罵倒しながらついてくるのは、ハロルドを思ってのことだろう。
フィーナは不安を抱えつつ、手を引くルディに従った。
校舎を出ると、使用人らしき女性が二人、出入り口側で控えていた。
ルディは手を離すと二人にフィーナを託した。
軽く頭を下げた二人に、フィーナも頭を下げる。
その一人が、細長い紐状の布を両手に持ってフィーナに差し出した。
「これは?」
「目隠しだ。見られると少々まずいものがあるからな」
ハロルドの居住スペースを知られないようにしたいのだろう。
「サンザシの実はお渡しします。世話係の話も、ここでよろしいではございませんか。
人目もありませんし」
もうすぐ午後の授業が始まる。
生徒はそれぞれのクラスにいるので、校舎の外に人の姿は見当たらなかった。
しかしルディは頷かなかった。
「世話役の件は、状況を見なければ判断が難しいだろう?」
「それは――」
「時間が惜しい」
ルディに急かされ、フィーナは仕方なく目隠しをした。
使用人の手をとり、連れられるまま足を進める。
手を引かれても、何も見えない中を歩くのは怖い。
ハロルドは王城だろう。そこまでの距離を考えて、フィーナは頭を抱えた。
見えない足元に緊張しながら歩くこと数分。
「着いたぞ」
「え? もう、ですか?」
告げたルディにフィーナは驚いた。
目隠しをとるよう言われてはずすと、確かに、城らしき建物内だった。
高い天井、装飾品はきらびやかだ。
検問を通った気配もなかったのだが――。
(――『なるほど。転移か』)
(――転移?)
(――『決まった場所と場所を繋いでいるみたいだな』)
目隠しをされていないマサトは、状況を全て見ていた。
マサトが見たものが、フィーナにもぼんやりと伝わったが、転移の概念のないフィーナには、何のことかさっぱりわからなかった。
(――『ハロルドの部屋の場所もだが、転移を知られたくなかったんだろ』)
マサトは、魔法を保持した道具を設えて、永続的に作動するようになっているのではという。
(――『初めて見るから、はっきりわかんねーけどな。さすが王族ってとこか。おそらく秘匿してる魔具だろ』)
言っている意味も重要性もさっぱりわからなかったが「希少価値の高い装置を使った」のはわかる。