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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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38.第一王子の伴魂 2


 体調に影響が出るほど枯渇したハロルドを思って、フィーナは俯いて唇をかみしめた。


 マサトは、サンザシの実を求めてフィーナの元に来たのも、魔力枯渇のためという。


『サンザシはネコ科にはたまらん食べ物だ。

 フィーナがしばらく持ってたから、主以外の魔力でも魔力の補充にはなっただろ』


「主以外の魔力でも――いいの?」


『違和感あるから吐き出すもんなんだが。

 酔いにまかせてごまかしたんだろ。

 ――あとは背に腹は代えられなかったか。……だな』


 吐き出すほどのものでも、栄養となるのなら取り入れたのだろう。


 そうマサトは言った。


『そういう状況だったから、世話係の話を受けて欲しかったんだ。

 何ができるかわからないが……助言はいくつかできるから』


 言ってため息を落とすマサトは、いたたまれない表情を浮かべている。


 伴魂のマサトから主のフィーナに、彼の感情が流れてきた。


 ハロルドはマサトより若い。マサトは助けになりたいと思っているようだった。


 ハロルドだけでなく、マサトは自分より若輩者には同じ思いを抱いていた。


「――わかった」


 マサトの思いを受けて、フィーナはうなずいた。


「世話係、受ければいいのね」


『頼む』


 少しの間でいい。


 助言が定着すれば「勉強に支障をきたす」等の理由をつけてやめらればいいからとマサトは言う。


 フィーナもマサトの提案に同意した。


 翌日、ルディに譲る分のサンザシの実を準備して授業を受けていた。


 使いの者は放課後に訪れると話していた。


 人の目も憚れるので、湖のほとり――ハロルドを洗った同じ場所を待ち合わせ場所にした。


 使いでも「ルディ・ウォルチェスター」の名が知れると、いらぬ注目を集めてしまう。


 フィーナはその状況は避けたかった。


 昨日、待ち合わせ場所を決める話の際、そう告げるとルディは奇妙な顔をした。


「なぜ?」


 たずねるルディに


「目立ちたくないんです……」


 と、正直な思いを告げた。


 フィーナの返事を聞いたルディは眉をひそめた。


「私の名が不快か?」


「そうではありません。……ええと……私はアルフィード・エルドの妹で、オリビア様とも見知った仲で、ザイル・ベルーニアは入学時の同伴者でと、市井出身者ながら、注目を集めてしまいました。注目を集めると、私のちょっとした行為が記憶に残ってしまいます。注目されていなければ、気付かれもしないことなのに」


「……よくわからん。たとえば?」


「授業で居眠りもできません」


 真顔で告げるフィーナに、ルディは吹き出した。


 笑うルディに、フィーナは慌てて言い募った。


「たまたま……疲れがたまってたときに眠ってしまったんです。一度か二度のことなのに『いつも居眠りしてる』って話になってるんです。影薄い存在だったら、そんなことなかったのに……」


 肩を落とすフィーナの話に納得しつつ、それでもルディは思う。


「私の知己との噂は欲しくないのか?」


 これまで、求められたことをルディはたずねた。


 面会を求められても、ルディも会う相手を選ぶ。


 一度きりしか会わなかった者でも、審査を通って拝謁を許されたと自負を持ち、それを掲げる者もいる。


 ルディは自分の名が持つ力を知っていた。


 それを辞退するフィーナの心情が、わからなかった。


 ルディの問いに、フィーナは首を傾げた。


「なぜ必要なのですか?」


「――――…………」


 ルディは、答えられなかった。


 フィーナは純粋にそう思っているとわかる。


 王族の名の力を欲しない。――なぜなら必要ないから。


 彼女はそうした存在なのだ。


(――では……)


 思って、振り返る。


 繋がりを欲した者たちは、何を求めていたのか。


(求めるもの――)


 周囲が可否判断した人物と接してきたが、相手が何を求めているのか、考えたことはなかった。側仕えなどが把握しているだろうが、その理由のすべて、自分が納得できるものだったろうか――。


 言われるまま応じていた自分を鑑みた。


 同時に、考える。


 自分が何を求めているのか。どうしたいと考えているのか。


 フィーナと別れてハロルドと部屋に戻って考えた。


 考えた結果、ルディは行動をおこした。




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