38.第一王子の伴魂 2
体調に影響が出るほど枯渇したハロルドを思って、フィーナは俯いて唇をかみしめた。
マサトは、サンザシの実を求めてフィーナの元に来たのも、魔力枯渇のためという。
『サンザシはネコ科にはたまらん食べ物だ。
フィーナがしばらく持ってたから、主以外の魔力でも魔力の補充にはなっただろ』
「主以外の魔力でも――いいの?」
『違和感あるから吐き出すもんなんだが。
酔いにまかせてごまかしたんだろ。
――あとは背に腹は代えられなかったか。……だな』
吐き出すほどのものでも、栄養となるのなら取り入れたのだろう。
そうマサトは言った。
『そういう状況だったから、世話係の話を受けて欲しかったんだ。
何ができるかわからないが……助言はいくつかできるから』
言ってため息を落とすマサトは、いたたまれない表情を浮かべている。
伴魂のマサトから主のフィーナに、彼の感情が流れてきた。
ハロルドはマサトより若い。マサトは助けになりたいと思っているようだった。
ハロルドだけでなく、マサトは自分より若輩者には同じ思いを抱いていた。
「――わかった」
マサトの思いを受けて、フィーナはうなずいた。
「世話係、受ければいいのね」
『頼む』
少しの間でいい。
助言が定着すれば「勉強に支障をきたす」等の理由をつけてやめらればいいからとマサトは言う。
フィーナもマサトの提案に同意した。
翌日、ルディに譲る分のサンザシの実を準備して授業を受けていた。
使いの者は放課後に訪れると話していた。
人の目も憚れるので、湖のほとり――ハロルドを洗った同じ場所を待ち合わせ場所にした。
使いでも「ルディ・ウォルチェスター」の名が知れると、いらぬ注目を集めてしまう。
フィーナはその状況は避けたかった。
昨日、待ち合わせ場所を決める話の際、そう告げるとルディは奇妙な顔をした。
「なぜ?」
たずねるルディに
「目立ちたくないんです……」
と、正直な思いを告げた。
フィーナの返事を聞いたルディは眉をひそめた。
「私の名が不快か?」
「そうではありません。……ええと……私はアルフィード・エルドの妹で、オリビア様とも見知った仲で、ザイル・ベルーニアは入学時の同伴者でと、市井出身者ながら、注目を集めてしまいました。注目を集めると、私のちょっとした行為が記憶に残ってしまいます。注目されていなければ、気付かれもしないことなのに」
「……よくわからん。たとえば?」
「授業で居眠りもできません」
真顔で告げるフィーナに、ルディは吹き出した。
笑うルディに、フィーナは慌てて言い募った。
「たまたま……疲れがたまってたときに眠ってしまったんです。一度か二度のことなのに『いつも居眠りしてる』って話になってるんです。影薄い存在だったら、そんなことなかったのに……」
肩を落とすフィーナの話に納得しつつ、それでもルディは思う。
「私の知己との噂は欲しくないのか?」
これまで、求められたことをルディはたずねた。
面会を求められても、ルディも会う相手を選ぶ。
一度きりしか会わなかった者でも、審査を通って拝謁を許されたと自負を持ち、それを掲げる者もいる。
ルディは自分の名が持つ力を知っていた。
それを辞退するフィーナの心情が、わからなかった。
ルディの問いに、フィーナは首を傾げた。
「なぜ必要なのですか?」
「――――…………」
ルディは、答えられなかった。
フィーナは純粋にそう思っているとわかる。
王族の名の力を欲しない。――なぜなら必要ないから。
彼女はそうした存在なのだ。
(――では……)
思って、振り返る。
繋がりを欲した者たちは、何を求めていたのか。
(求めるもの――)
周囲が可否判断した人物と接してきたが、相手が何を求めているのか、考えたことはなかった。側仕えなどが把握しているだろうが、その理由のすべて、自分が納得できるものだったろうか――。
言われるまま応じていた自分を鑑みた。
同時に、考える。
自分が何を求めているのか。どうしたいと考えているのか。
フィーナと別れてハロルドと部屋に戻って考えた。
考えた結果、ルディは行動をおこした。