36.珍しい伴魂 13
ルディとしてはセクルト貴院校の内情は興味なかったので、カイル本人を注視していた程度だ。他の生徒や校内の事情を知らなかった。
フィーナは入試の話をしなければならないのかと困惑した。
事情はある程度理解しているが、言うべきでないことをうまくはぐらかして話す術を知らない。
困惑しながら、そういえばと思い至る。
ルディはフィーナを貴族籍だと思っていた。
スーリング祭で見たから――成績優秀者が出席する場だから、市井出身者と思わなかったのだ。
特に一学年生で市井出身者がスーリング祭に出るなどあり得ないのだから。
ルディとしても、フィーナの名を聞いて、貴族籍の頒布図が思い浮かばなかったことに納得していた。
アルフィード・エルドの妹だと聞いたが、アルフィードはオリビアの側にいて長いので、市井出身者だとの認識が薄れていた。
「――確かに、市井出身なら確認が必要か」
フィーナは入試の件をどう説明すればいいのかと焦っていたが、ルディの関心が他に移って安堵する。
「そ――そうですよ! ふさわしいかどうか、確認されたほうがいいと思います!」
(ダメと言われると思いますけど! そうであって欲しいですけど! そうでないと困りますけど!!)
フィーナは胸の内で「却下」されることを望んでいた。
そうした話の中、ルディがふと気付いたことを口にした。
「そういえば。スーリング祭に出席したのなら、寮長ではないのか?」
「――あ。」
その件もあった。
サリアから教わりつつ、徐々に引き継いでいる途中だ。
寮長もこなせていないのに、世話係をする時間などあるのだろうか?
「仮に世話係を受けたとして。お世話の時間はどうなるのですか?」
「学生だからな。週に数日、数時間が精いっぱいか。その辺も含めて確認、検討しよう」
話の流れ的に「不可能」っぽい雰囲気を感じて、フィーナはホッと胸をなでおろした。
王族の伴魂のお世話など、扱いが怖くてかなわない。
ハロルドが膝の上に顎を乗せてくつろいでいる今も、足を動かしたくても気を使って思う位置に移動できないのだから。
そう考えるフィーナに、マサトが意識下で話しかけてきた。
(――『世話係、頼まれたら引き受けろ』)
(――……え!? ど、どうして!?)
(――『後で説明する』)
(――イヤよ! そんなの無理だし、時間もないし!)
(――『できる範囲でいい。少しでもいい。話があれば受けてくれ。じゃないと……まずいぞ、あれ』)
(――まずい……って……何が?)
意識下の話は、ルディが話しかけたことで途切れた。
世話係の件は、明日、サンザシの実を取りに行った時に、話をするという。
そこでルディ達が城に戻ろうとしたとき、フィーナは意識下の会話で、マサトから伝えるよう頼まれたことをルディとハロルドに話した。
「城に戻られる時は、子供の姿の方がよろしいかと……」
「なぜだ?」
(――『目立つからに決まってんじゃねーか』)
『バカか、こいつ』との悪態を、意識下で聞いて乾いた笑いを漏らす。
「ここは居住室から離れていますし、殿下の伴魂を初めて目にする者もいるでしょうから、いらぬ騒ぎを避けるべきかと。
子供の姿で布にくるんで殿下か――あ。お許し頂けるなら私が運びましょうか?」
フィーナの申し出は、ハロルドが子供の姿で運ばれる点は採用されて、フィーナが運ぶ点は却下された。
ハロルドを洗って汚れた姿は、ルディに付き従うには、成獣姿のハロルドより興味をひくだろう。
城に帰る際のハロルドの話をしたあと、マサトがフィーナにこう話して欲しいと意識下で告げる。
それを聞いたフィーナは戸惑った。
意味がわからなかった。
(――『伝えてくれ。頼むから』)
頼まれて、不承不承、口を開く。
「――殿下。伴魂様ですが、日ごろは子供のお姿か成獣のお姿か、どちらでいらっしゃいますか」
なぜそのようなことを聞くのかと、ルディは眉をひそめたが、答えてくれた。
「通常は成獣だ。気まぐれで子供にもなるが」
答えたルディの言葉を受けて、マサトが意識下で話してくる。
――言うとおりに話すように、ゆっくりとした口調、フィーナの話をまねた言葉で。
「『そうですか。ではしばらく、子供の姿で過ごさせてください』」
「子供の姿で? なぜだ?」
「『成獣だと、魔力の消費が大きいようです。
それは殿下の体に負担となります。
体調がすぐれないときは負担になりますから、その時のための練習と思ってください』」
(――そうなの?)
(――『あとで話すって言ったろ』)
ルディは考えたあと「考えておこう」と告げた。
そうしてルディとハロルドは城に戻り、フィーナとマサトは寮室に戻ったのだった。




