34.珍しい伴魂 11
強い力で引かれたフィーナは、勢いあまってルディにぶつかりそうになる。
ルディも軽く引きあげたつもりだったが、フィーナが身軽だったため、力加減を見誤ってしまった。
フィーナと同じく、至近距離に驚く。
フィーナは驚きながらルディを見上げて――至近距離で見る彼に見入っていた。
端正な顔立ちはカイルに似ているなと思う。
(カイルも――こんな風になるのかな……)
数年後のカイルを想像していると、ルディが小さく笑った。
「ひどい格好だな」
言って、ハロルドにもみくちゃにされた際、髪についた木の葉をつまみとる。
ハロルドを洗って服も体も汚れている。
フィーナは謝って距離をとろうとしたが、手をつかんだルディがそれを許さなかった。
戸惑うフィーナに憮然としている。
フィーナは手を離してくれないルディから片腕の分だけ、精いっぱい距離をとった。
「殿下の伴魂様は私が見つけた時、ひどく汚れていたんです。
洗った私も汚れたので、不快な匂いも作業着に移ったはずです」
「不快な匂い? 汚れていたと言っていたが、ひどかったのか?」
「……はい」
フィーナの手を離さないまま、驚きの表情を見せるルディ。
フィーナもルディに驚きつつ、つかまれた手を逃れようと精いっぱい体を離した。
「身の回りの世話はさせていたはずだが……」
「迷われたときに汚れたのではないですか?」
「……そうだな」
(――『違うけどな』)
「え?」
不意をうって意識下に流れてきたマサトの言葉に、思わず声が出てしまう。
ちょうどその時、ルディがフィーナの手を離したところだった。
(――違うって……どういうこと?)
(――『後で話す』)
フィーナは首を傾げつつ、ふと「そういえば」とつぶやく。
声が聞こえたルディが怪訝な顔をした。
「あ……いえ……」
フィーナは口を閉ざしたが「気になるから話せ」と促された。
「なぜ、迷われたのかと思ったもので。
人が気付かない経路があるのなら、気をつけた方がいいのではと……」
「それは――」
ルディはハロルドに目を向けた。
ハロルドはルディに命じられたとおり、座って控えている。
尻尾でぱたぱたと地面を叩き、ぴくぴくと動く両耳から、動きたいのを我慢している様子が伺えた。
ルディはため息をつくと「すりよる程度なら」とつぶやく。
ルディの許可を得たハロルドが、嬉しげに歩み寄ってきた。
――フィーナに。
「え?」
フィーナは甘えてくるハロルドに驚いた。
ルディにすり寄るものとばかり思っていたのだ。
「迷ったのではなく、探し出たようだ」
「探して?」
脚に頭部をすりよせるハロルドを撫でつつ、フィーナは首を傾げた。
耳の後ろをかいてあげると、気持ちよさそうにグルグルと喉を鳴らしている。
マサトにしてあげると気持ちよさそうにしていた行為を、ハロルドにも無意識のうちにしていた。
フィーナの行為を、ルディは興味深げに眺めていた。
「サンザシの実に誘われたのだろう」
「サンザシって……。
――っ!
わ――私のせいですか!?」
ルディの住まいは王城だ。
ハロルドも王城が住まいだろう。
警備は厳重のはずだ。
そこをサンザシの実につられて抜け出したとしたら――。
ルディの伴魂を狙って、サンザシの実を所持していたと疑われる可能性もある。
そんなつもりがなかったとしても、結果だけで判断されると弁明は難しい。
青ざめるフィーナを見て、ルディは息をついて「わかっている」と告げた。




