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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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30.珍しい伴魂 7



 姿を変じる伴魂が存在するとは知らなかった。子から成獣に姿を変えたのに驚いていた。


 そんな伴魂が居るなんて。


 そう考えながら同時に自分の行為を振り返って、フィーナは全身から冷や汗が吹きでる心地だった。


 人の伴魂には許可なく触れてはいけないのが、暗黙の了解となっている。


 一般人同士でもそうだというのに、王子の伴魂に食べ物を与え、腕に抱き、体を洗い――。


 フィーナの行為はすぐさま斬り捨てられても仕方ないものだ。


 意味もなく斬り捨てられないだろうとマサトは言ったが、不敬罪レベルのことをしてしまっている。


 フィーナは青ざめていたが、ルディは別の事に意識が向いていた。


 フィーナの名を聞いて「エルド?」とつぶやく。


「エルドとは――そなた、アルフィード・エルドの縁者か」


 ――フィーナの脳裏に、第一王子に対するアルフィードの忠告がよみがえった。


 胃の奥が冷たくなるのを感じながら、肯定の返事を告げた。


「アルフィード・エルドは……私の姉になりま――ふぶ。」


 途中で声は遮られた。


 ルディに頭を下げていた視界に、急に茶色いものが入ってきたかと思うと、それが顔を塞いだのだ。


 ぐるる、と、成獣の姿になったルディの伴魂が、頭を下げているフィーナの顔の下に頭部を入れて、伸びあがるように頭部を押し上げていた。


 結果、伸びあがったライオンの頭部――鬣に顔がうずまり、伸びあがった前脚の勢いでフィーナは立ちあがってしまう。


「わぷ。ちょ――っ!」


 鬣にうずまる感触に驚き、不意をうって体が持ち上げられ、体勢をうまくとれず、よろけてしまう。


 どうにか踏みとどまって倒れずにすんだところで、はたとルディと目があった。


「も――っ! 申し訳――」


 許しもなく立ちあがったのを謝罪し、膝まづこうとするが、すりよるライオンに邪魔されてしまう。


 第一王子の伴魂を無下に押しのけられず、どうしようと戸惑っていると「――ハロルド」と声がかかった。


 ルディの声にライオンは動きを止め、伺うように振り返る。


 無言で首を横に振るルディを見て、ライオンは肩を落として大人しく主の傍らに戻った。


 大型の獣にもみくちゃにされたフィーナは、ルディの伴魂、ハロルドから解放されると放心状態で地面に座り込んでいた。


 人ほどの大きさのある獣と触れ合う機会などないので、どう対処すればいいのかわからない。


 力加減がわからず、うまくかわせず、もみくちゃにされてしまった。


 髪がボサついている。作業着はよろけてしまった。


 そうした自身の状況に気付かないほど、座り込むフィーナは呆けている。


 制御できない野生の獣の力を改めて思い知ったのだった。


「――ド……フィーナ・エルド」


「っ! はい!」


 放心していたフィーナは、名を呼ばれて我に返った。 


 声の方を見ると、ルディがフィーナの様子を伺っていた。


「も――っ、申し訳ございま――!」


 慌てて立ちあがろうとすると、足に力が入らずカクンと崩れるように座ってしまう。


 フィーナの様子を見て、ルディが「無理をするな」と声をかけた。


 「大丈夫です」とフィーナは立ちあがろうとしたのが、膝に力が入らず、結局座りこんだ体勢でルディと面する状況となった。


 座り込むフィーナを見て、ルディはフィーナを見つめる自身の伴魂の背を、あやすように撫でた。


 撫でて、驚きに小さく目を見張る。


 手触りがごわつくのは、生まれつき剛毛だからと思っていたが、触れた体毛はしなやかで柔らかだ。鬣もやわらかく、体毛と体毛の間に空気を含んで、ふわり、さらりとした感触となっていた。


 これまでと大きく異なる体毛を手で感じたルディは、反射的にフィーナに目を向けた。同時に機嫌のいい伴魂の感情が意識下に流れ込んできた。


 伴魂の状態を確認しつつ、その背を何度か撫でたルディは、フィーナの名を再度呼んだ。




第一王子の名前、前回初登場です。

王子の伴魂もですね。

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