29.珍しい伴魂 6
困惑するフィーナの思いはマサトにも届いていた。
(――『そりゃ、そうなるだろ』)
嘆息しながら、フィーナの左隣に歩み出て腰を下ろした。
マサトに気付いた第一王子が軽く目を見張っている。フィーナが壁となって見えなかったようだ。
(――どういうこと?)
問うフィーナにマサトが答えるより先に、第一王子、ルディが口を開いた。
「カイルの同伴者――だったか……?」
問いかけなのか、独り言なのか。
答えるべきか否か迷っていると、フィーナの考えを察したルディが「発言を許す」と告げた。
「……はい」
肯定するフィーナをルディは探るように見つめる。
「何をしていた?」
「……何、とは……」
「なぜ、これと居た」
言ってルディは子ライオンに目を向ける。
フィーナは戸惑いつつ、セクルトの敷地内で子ライオンを見つけてからの経緯を話した。
フィーナの話を聞いた後、ルディは子ライオンを見た。
しばらくそうした後、小さく息をつくと、フィーナに向けていた剣を鞘におさめた。
「嘘はついていないようだな」
剣がしまわれたのにホッとしながら、フィーナは訝った。
フィーナが話した内容をすぐに信じてくれたのが不可解だった。
スーリング祭で顔を合わせているとはいえ、ルディにとってフィーナは素性の知れない人間だ。
その輩が話した内容を簡単に信用したのが解せなかった。
その想いはマサトにも伝わっていた。
(――『当人が認めれば疑いようもないだろ。だいたいそいつは……』)
フィーナの意識下に、マサトのため息交じりの声が聞こえてくる。
そのマサトの声も、途中で止まった。
ルディが子ライオンをつと見下ろして声をかける。
「ハロルド。いつまでその姿でいるつもりだ?」
ルディの声に反応して、子ライオンが一声あげた。
そして。
ふわりと大気が膨らんだのを感じた次の瞬間には、子ライオンはルディの腰の高さほどある成獣に変化していた。
鬣は雄々しく、筋肉質でありながらしなやかな体躯は、大型の獣としての威圧感をたたえている。
変化は一瞬のことだった。
目の前で起きた光景に、フィーナは驚いて思考が停止した。
思考が停止しながらも、本能的に理解する。
子ライオンは――あれは。
第一王子の伴魂ーー。
(――『成獣の姿でなかったにしろ、ライオンだったら第一王子と関係してるかもって普通考えんだろ?』)
(――だって獅子って……)
呆然としながら、フィーナは意識下でつぶやく。
意識下でつぶやきながら脳裏に浮かんだ画像は、マサトにも伝わったようだ。
フィーナが思い浮かべた画を感じたマサトは、意識下で呆れた吐息をもらす。
(――『それ虎だろ。お前、獅子と虎を勘違いしてたのか?』)
その通りだった。
獅子がライオンの別名だと理解している。
理解しているが、フィーナには「ライオン」の名称が馴染み深く、「獅子」と言われてもピンと来なかった。
ライオンはドルジェの実家にある本で覚えた。
様々な動物が書かれたその本には、ライオンとトラが同じページに載っていた。
「ライオン」の文字とその姿が描かれ、その隣に「トラ」の文字と姿が描かれていた。
なぜ思い違いをしたのかわからないが「獅子」と聞くと、同じ発音数で体格も似ている「虎」を思い浮かべてしまっていた――。
そうした理由は後日振り返って思い至った結論だ。
この時のフィーナは、なぜ自分が勘違いしていたのかわからず混乱していた。
「雄々しい」と聞いていた第一王子の伴魂。
子ライオンの愛らしい姿が「雄々しい」に結びつかず、第一王子の伴魂だと思い至らなかった。
知らなかったとはいえ、第一王子の伴魂を連れまわした事実に変わりない。
自分の行いに、フィーナは青ざめた。
「名は、何と言ったか?」
「――フィーナ・エルドと……申します」
ルディに問われて、頭を下げて答える。
フィーナの勘違いは、私の勘違いです。(苦笑)
理由は異なりますが「獅子=ライオン」とわかりながら脳内でルディの伴魂は虎のイメージになっていました…。