28.珍しい伴魂 5
背筋がぞっとする冷気は、肩口の金属から感じるのか、冷徹な男性の声から感じるのか。
両方からだと思いながら、視界に映る刃に、フィーナは息をのんだ。
声に反応して静止する。
体が強張っている。
声の様子からザイルと同じ年頃だろうとフィーナは思った。
肩側に感じる刃は、首の近い位置にある。
首に触れてはいないが、フィーナの体の動き、剣の持ち手の動きによっては傷を負いかねない状態だ。
背後に立つ人間が、フィーナの肩口に剣を添えている。
それが誰かわからず、フィーナはこくりと息を飲む。
反射的にマサトを見るが、白い伴魂は慌てる様子もなく、フィーナの背後に立つ人間をつと見上げていた。
そうしながら、フィーナに意識下で声をかけていた。
(――『大丈夫だ。焦るな』)
(――何が大丈夫なのよ)
(――『意味もなく斬りすてるヤツじゃないだろうから』)
(――それって……)
意識下の話の中で、フィーナは呻いた。
(――理由があったら斬られるってこと?)
(――『…………』)
素知らぬふりして視線を反らすマサト。
困惑するフィーナの側から、子ライオンが「ガウガウ」と声を上げながら、フィーナが背を向けた先へと慌てて走り出した。
「あっ! ちょっと――!」
逃げないように手を伸ばして止めようとした時だった。
「動くなと言ったはずだ」
添えただけの刃が、斬りつける構えをとる。
視界に映る刃の動きからフィーナは再度、息をのんだ。
ライオンは珍しい動物だ。
保護しなければと焦っていたのだが――。
背後から子ライオンの嬉しげな声が聞こえてくる。
同時に、子ライオンをあやす男性の声も聞こえた。
怪訝に思うフィーナに、剣をつきつけた人間が体ごと振り向くよう指示する。
フィーナは言われるまま、ゆっくりと体ごと向きを変えた。
男性の足元には子ライオンが控えている。怯える様はない。男性を知っているようだ。
子ライオンが逃げていないこと、保護先の可能性に少し安堵する。
そんなフィーナに、男性は顔を上げるよう告げた。
おそるおそる顔を上げたフィーナは、見上げた男性を見て驚きに目を見開いた。
フィーナを見た男性も、驚きに軽く目を見開いている。
「お前は確か――スーリング祭で……」
そう呟くのはカイルとオリビアの兄、第一王子、ルディ・ウォルチェスターだった。
第一王子、ルディ・ウォルチェスター。
隣国より嫁いできた第二王妃を母とする、現国王の第一子になる。
オリビアの母である第一王妃、カイルの母である第三王妃の仲の良さは王宮内外に知られているが、第二王妃は二人から一線を画している。
第一王妃、第三王妃の働きかけても、二人とは距離を取っていた。
――つまり。
二人が「仲良くしましょう」と声をかけても「遠慮します」の姿勢をとっているのだ。
表立った不仲は見せないが「仲がいい」とは言えない状態だった。
セクルトに入学する以前、礼儀作法の指導の中で、第一王子に関してアルフィードから注意事項として教わっていた。
「第一王子には気をつけるように」
――と。
アルフィードはオリビアの側仕えだ。
オリビアとオリビアの母、第一王妃を心よく思わない第二王妃関係者には、言動に気を付けなければ、いらぬ火種をまいてしまうと言われていた。
アルフィードの妹であるフィーナの言動が、オリビアに影響及ぼすかもしれない。
アルフィードの妹ということで、第一王子の関係者から何かしらの接触があるかもしれないとも言われていた。
言われていたが。
(まさか本人と対面するなんてっ!)
アルフィードの注意を聞いていたときは「王子や王妃と会うことなんてないから、関係者に気を付けよう」と派閥の面々を覚えようとした。
それなのに――っ!
なぜ、なぜ。
第一王子の関係者でなく、王子と辺鄙な湖のほとりで、はち合わなければならないのだ。




