25.珍しい伴魂 2
国でも一部の地域でしか生息しない、珍しい生物だったはずだ。
セクルト貴院校は王城の敷地内の設備で、高い壁と検問で区切られているが城にも近い。
城には、各地の珍しいものが献上される。
ライオンの子供と思われるこの生物も、その類なのだろうか――。
思って、城のある方向をちらりと見た。
捕獲――になるのか、保護になるのか。
フィーナは再度、膝を曲げて座ると、自分の目線を子ライオンの目線の高さに近づけた。
右手を伸ばして「チッチッ」と舌を鳴らす。
警戒心をみなぎらせた子ライオンは、唸りながら後ずさった。
「やっぱり無理かぁ」
しばらく様子を見ていたが、警戒心を解く様子が見えない。
しゃがみこんだ姿勢がつらくなって、一度立ちあがって周囲を見渡した。
教師を呼んで指示を仰ごうにも、この場を離れると子ライオンを見失うかもしれない。
誰かに教師を呼んでと頼みたくとも、人影は見当たらなかった。
意識下でマサトを呼び続けているが、反応がない。
反応がない時は、遠出をしているか昼寝をしているかだ。
誰か通りかかるのを待つことにして、子ライオンとの接触を試みた。
ドルジェにいるころ、傷ついた小動物を何度か保護した。
伴魂を含め、身近に動物はいたので、苦手意識はなかった。
逆にどんな動物も触ろう、捕まえようとするので、両親に止められていたほどだ。
子ライオンはケガはないようだが、警戒心が強い。
何か食べるものでもあれば気を引けて、警戒心もやわらぐだろうが、食物の手持ちもない。
根気よく声をかけ続けていた時だった。
それまで唸り続けていた子ラインが、ふと声を止めた。
鼻先に寄せていた皺は消えて、むき出しになっていた牙も警戒を解いた口の中に納まっている。
興味深げな眼差しをフィーナに向けて、鼻をひくつかせ、少しずつ差し出した手の方に近寄ってくる。
警戒を解いてくれたのか。
思いつつ、フィーナは驚かせないように手を差し伸べたまま静止していた。
鼻をひくつかせてフィーナの指先を嗅いだ子ライオンは、指から手、腕へと移動する。
やがてジャケットのポケットをかざんだ子ライオンは、ポケットに顔を突っ込むと、中に入っていたハンカチを咥えて引き出した。
薄黄色のハンカチに包まれた赤い実が、引き出されて広がった拍子にパラパラとこぼれ落ちる。
「あ……」
サンザシの実だ。
マサトに頼まれて、ドルジェの両親から送ってもらった物だ。
サンザシはドルジェの森に生息し、今の季節、小粒の赤い実をつける。
マサトはこの実を好んでいた。
主の魔力を糧とする伴魂は、口から摂取する食事を必要としないのだが、マサトは『味を楽しみたい』と、様々な食物、料理を口にし、堪能していた。
味を楽しんでいても、伴魂は基本、主の魔力が生命の糧だ。
フィーナが身につけていれば自然と魔力が込められるので、生の糧と味覚、二つの相乗効果を期待するマサトに頼まれて持っていたものだった。
地面のこぼれた赤い粒に鼻先を寄せた子ライオンは、鼻をひくつかせて香りを確認した後、パクパクと口にした。
「あっ!」
止めようとしたが間に合わなかった。
もともと十粒程度しか持っていなかったこと、実自体小さなものなので、声を上げ、反射的に子ライオンを抱え上げた時には、全て口に含んだ後だった。
咀嚼と飲み込んだ感触を抱き上げた手から感じて、フィーナは心配した。
ライオンが食べても大丈夫なものなのだろうか。
その心配もつかの間のことだった。
反射的に抱え上げた子ライオンから、漂った体臭が鼻腔をくすぐった。
「っ! うっ!!」
鼻をつまみたくなる強烈な獣臭に、フィーナは声をあげて顔をそむけたのだった。
久しぶりの更新です。
更新できなくて、すみませんでした。
家族の長期入院中の関連で、時間をとられてしまってました。