21.サリア宅、訪問 14
マサトは再度、サリアとガブリエフに目を向けた。
『俺が基本を叩きこんで、あとはわからないところはフィーナに聞く。
……もしかしたら、小児校時代までさかのぼって基礎を叩きこむ可能性もある。
最初につまづいたら、あとあとまで響くから、そこは一つ一つ、きっちり修めていきたい。
そうしながら、授業は普通に受けてもらう。
かなりキツイ二足わらじになるが……どうする?』
サリアの意向をたずねたマサトだったが――答えは聞かずともわかっていた。
マサトが話す内容を聞いていたサリアは、話が進むにつれ、瞳に生気を宿らせ、頬を紅潮させ、口元に笑みをたたえ、前のめりの姿勢となっている。
「お願いしてもいいの?」
『サリア・スチュード嬢以上に、うちの主が世話になってる人間はいない。恩人が困っているんだ。出来得る限りのことはするよ。
……大変なのは俺たちじゃない、サリア本人だけどいいのか?』
「かまわないわ」
サリアの返事を聞いたマサトは頷くと、視線をガブリエフに向けた。
『――ってことだけど、いいか?』
「私から言うことは何もない。約束を守ってもらうだけだ」
「わかっています」
サリアは力強く頷いた。
サリアの成績の話がひと段落したところで、マサトがおもむろに口を開いた。
『で? 結局のところ、宰相様は何を確認したかったんだ?
フィーナの成績確認する理由がよくわからないし、俺のこともどう考えてんだ?』
マサトの言葉に、フィーナは意図をつかめず、小首をかしげている。
ガブリエフはしばらく、探るようにマサトを見た後、小さく息をついた。
「エルド嬢が自分の置かれた状況を理解しているのか、確認しておきたくてな」
言って、フィーナに目を向ける。
「深く考えていないのは理解できた。
伴魂に関しては――単なる興味本位だ。
心配せずとも、他言はせぬよ。……今のところはな。
下手な混乱をまねきたくないのでな」
言って、マサトに目を向けるとほくそ笑む。
マサトはぞくりと背筋に悪寒が走るの感じて、嫌そうに舌打ちした。
『腹にいちもつ抱えてるって、隠そうともしないし』
アブルードの件まで知っているのか――。
気になったが、マサトは聞かずにいた。
藪蛇になりそうな気がしてならかったのだ。
その後もマサトはガブリエフを警戒しつつ、サリアの今後について話した。
寮室で、まずマサトがサリアに基本指導を行おうと話がついた。
話がまとまって、部屋を後にしようと椅子から立ち上がったフィーナとマサトに、同じく立ちあがったガブリエフが声をかけた。
「――サリアを、よろしく頼む」
告げて、フィーナとマサトに最上級の挨拶を送る。
「ひぃっ!」とフィーナとマサトは震えあがった。
国王に次ぐ、政治的権力を持つ役職者が、一庶民に頭を下げるなど、ありえないことなのだ。
ガブリエフはすぐに体勢を整えたが、挨拶は本当の意志を込めたものだ。
それから解散となり、寮室や執務室と、それぞれの場所へ足を向けたのだった。