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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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21.セクルト貴院校入学?


 数日後、体調が戻ったフィーナは、小児校から帰宅すると、人知れず伴魂からの指導を受けていた。


 魔法に関することが主だったが、次第に勉学にも範囲は広がった。


『ちょっ、おまっ、何でこんな簡単なこともわからないんだ!?』


「逆にどうしてわかるの!?」


『わからない方が不思議だよ!

 22から5を引いたら17だろ』


「指が足りなくて、間に合わなかったんだもん」


『それくらい暗算しろよ』


 ……と、計算方法の指導を受ける。


 どの職業に置いても、帳簿は必要になるので、計算は商売に直系する、大切な授業であった。


 当初、小児校に顔を出さなかったネコだったが、授業中はフィーナの足元で寝そべっている状態が増えた。


 寝ているふりをしながら、授業を聞いているのだと気付いたのは後のこと。


 そうして授業を聞いて、フィーナに『復習』と称して、フィーナが理解しきれなかった部分を指導していく。


 おかげでテストの点数は前年度に比べて覿面の上昇率となっているが、フィーナとしては自分の力だけではないので「なんだかな」とモヤっとした思いを抱えていた。


 伴魂であるネコが言うには『メモした答えを見て試験を答えたんじゃない。


 第三者の指導があったにしろ、フィーナ自身がきっちり覚えて身に付けたことを試験で答えているのだから、ズルではない』と言いきる。


『塾と同じだ』


「ジュクって何」


 ……と、時折、知らない単語を耳にするが、説明を聞いても理解できないので、聞き流している。


 小児校初年度、便宜をはかってもらった伴魂試験を合格して、無事進学。


 二年目に突入して数ヵ月後、ふとした時に、伴魂が主の学業成績を知って愕然としてからの出来事だった。


 念のために言っておくと、フィーナの成績は決して悪くはなかった。


 クラスの中でも上の下。


 マーサより少し低くて、ジークより少し高い順位だった。


 小児校の学業レベルが、ネコが考えていた以上に低かったのだと、後に判明するのだが、フィーナの試験用紙と結果を見て『え? こんなこともわからないの?』と衝撃を受けたのだという。


 危機感を覚えた伴魂の指導によって、フィーナの成績は常にトップ。


 元が下位ではなかったので、怪しむ者もいなかった。


 姉のアルフィードが突出した成績を残していたこともあり、妹のフィーナの成績も「さもありなん」と誰もが思っていたのだ。


 そうして小児校を八つの年巡りの春に卒業、同じ年に隣接する中児校に入学した。


 そこでの三年の勉学期間を経て、小児校、中児校の修了証を取得すると、晴れて一社会人として受け入れられるのである。


 中児校という学び舎での二年目。


 フィーナが十の年巡りを迎えた夏に、耳を疑う話が舞い込んだ。


「え?」


 薬茶を口にしたフィーナは、ザイルが口にしたことに目を瞬かせた。


 黄金色の、毛先だけが波打つクセっ毛は、血筋によるものだと言っていたザイルは、目にかかる髪をかきあげながら再度、残念そうにつぶやいた。


「フィーナのセクルト貴院校への入学が決まったそうです」


「え? 決まったって? どうして?」


 ザイルは、フィーナの両親、リオンとロアが営む薬剤店の従業員である。


 リオンの家系は代々、薬剤店を営み、それぞれの代がそれぞれの試みを用い、独自の調合や薬草を受け継いでいた。


 ザイルはフィーナとネコの護衛をする日々の中でその事実を知り、王宮にも存在しない調剤や薬草を受け継いでいると知ると、いたく感銘を受けて、弟子入りを願い出た。

(村人のふりをしてフィーナを護衛していた経緯は内密である。)


 少々変わった性根のザイルだが、貴族は貴族。


 リオンもロアも顔を青くして辞退したが、ザイルは引かなかった。


 騎士もやめて身一つで薬剤店の戸を叩いたザイルを無下にすることもできず「貴族様の生活はできませんよ」と念を押して、受け入れることとなった。


 騎士をやめる際、雇い主であるオリビアの承諾が必要だったのだが、ザイルの熱弁を聞いたオリビアは、内容を一割も把握できなかったが「えっと……まあ、本人が望むんならいいんじゃない?」と了承した。


 騎士はやめたが生まれ持った籍は抜いていないので、基本、エルド家で住み込みで過ごすが、実家へは自由に行き来で来た。


 元はフィーナとネコの護衛としてあてがわれたのだ。


 騎士という立場での護衛ではなくなったが、オリビアとの繋がりは続いている。


 貴族街や宮廷とのやりとりは、アルフィードよりザイルを通しての方が多かった。


 ザイルはザイルで、エルド家で薬剤を学びつつ、ネコからの指導も受けている。


 ネコとしては、薬剤店に勤めるのは、自分の指導を受ける隠れ蓑ではないのか? との思いもあったが、当人にしてもザイル経由で宮廷や城内の情報を得られるので、勝手がよかった。


 薬剤店の従業員としても働いているので、フィーナはザイルに対して、他の村人と同じように話していた。


 ザイルは誰に対しても敬語を崩さなかったが、フィーナは気心の知れた相手には敬語を省くことが多く、ザイルに対しても同じだった。


 そうした経緯で、平民のフィーナに貴族のザイルが敬語を使うという、少々おかしな状況になっていた。


 おかしな状況だが、ザイルが唐突に口にした内容もおかしかった。


 昼食から数刻後のおやつの時間に、居合わせたザイルとフィーナは薬茶を飲んでいた。


 フィーナが煎れたお茶なので、フィーナ好みの香りと口当たりになっている。


 お茶を口にして、ほっこり和んでいるところへ、ザイルが「そう言えば」と世間話を切り出すように口を開いたのだ。


 ……内容は世間話でなく、フィーナ自身に関わることだったが。


 セクルト貴院校。


 中児校を卒業した貴族の子女が通う、国唯一の学び舎である。


 国が認めれば、民間人も入学可能だが「神童」と世間がざわめく突出した才能を持つ人間に限られていた。 


 貴族の子女は通うのが当たり前だったが、民間人は自ら望んで通える場所でもない。


 国から声がかからなければ、入学などあり得ない場所だった。


 フィーナの姉、アルフィードは幼少からの周囲の噂と自身の突出した能力で、セクルト貴院校に望まれて通うこととなった。


 それまで、アルフィードの能力を、両親は素直に喜んでいたが、セクルト貴院校への声がかかった辺りから、これまでの在り方を後悔していた。


 可能だからと全てさせずに、ある程度で抑えるべきだったのでは。……と。


 一般人が貴族の中で生活するなど、アルフィードが苦労するのは目に見えている。


 できるなら辞退したい。


 ……が、国からの要請を断るわけにもいかない。


 そうした両親のジレンマを、フィーナも知っていた。


 知っていたからと言って、特に抑制もしていなかった。


 アルフィードのように「神童」と騒がれることはなかったからだ。


 成績は「最優秀」を修めていた。


 それは卒業時の修了証にも反映され、後々に有利になることはあっても、不利になることはないので、意図して得た結果である。


 アルフィードのように、国が求めるほどの成績は修めていないし、周囲も騒いでいないはずだった。


 ザイルはため息を落としつつ「必要と判断したからでしょう」と告げる。


「必要?」


 なにが。


 ……と、目を眇めて問うフィーナに、ザイルはつと、フィーナの足元で体を丸めて寝ているネコに目を向けた。


 その目は「寝たふりしてるけど、聞こえてるだろう?」と言いたげなものだった。


「魔法の鍛錬が」


 ザイルはフィーナ以外で唯一、ネコが人語を話すと知っている人物だった。


 元オリビアの騎士団に所属していたのでオリビアに話しているかは不明だったが、姉のアルフィードにも話していないところを見ると、話すにしても限定してくれると想定できた。


 フィーナはネコに関して、隠しごとをしなくていい唯一の人間だとの、気心知れた思いもあって、素直な感想が口からこぼれでた。


「いまさら?」


 フィーナはネコから魔法に関しての指導を受けている。


 数年前、自身の身に起きた不測の事態も相まって、それらに対処できる術は身につけておこうと鍛練を受けていた。


 ザイルも自ら志願して、ネコの鍛練を受けている。


 一緒に指導を受けたこともあった時のことを考えると、ザイルがこれまで受けていた指導とネコの指導は全く異なること、ネコの指導の方が実利あるものだと感じていた。


 そのネコの指導――自身の伴魂からの指導を受けているのに、改めて貴院校の指導を受けなければならない理由が、わからない。


「フィーナの伴魂が彼だからですよ」


 ザイルは口を開くたびにため息を落とす。


 それだけ気を落としているようだった。


「実際はどうなのか知らずに

『魔力の強い獣を市井の民が伴魂としているのは危険極まりない。

 暴走する可能性もある。

 しかるべき魔法の指導が必要だ。

 実力と釣り合わなければ、契約を解除すべきだ』

……と声を上げる輩がいるのですよ」


 アルフィード嬢の時もそうでした。


 補足事項として、姉の名を告げるザイルの言葉を、フィーナは胸の内で反芻させた。


 ……自分が思い違いをしている可能性も考えて、ザイルの言葉を何度か思い返したのだが、結論は同じ所へたどり着く。


「契約解除を狙ってるってこと?」


「ええ」


 庶民には過ぎた伴魂だから没収。……と考えているのだろう。


 ザイルの言葉を聞いても「ふーん」とフィーナはそっけなかった。


「おや」とザイルの方が意外そうだった。


 少しは慌てるのではと思っていたのだ。


 ……想像できないが。


「気にならないのですか?」


「だって。解除の方法わかんないもん」


「ねぇ?」とフィーナは自身の伴魂に同意を求めるが、白い伴魂は顔を伏せて目を閉じて反応を示さない。


「ああ。そうでしたね」とザイル。


「お姉ちゃんもそうなんだけど。

 お姉ちゃんは貴院校でどうだったの?」


「私も卒業していたので知りませんが、噂は聞いていましたよ」


 アルフィードは貴院校においても成績優秀、魔法に関しても伴魂をうまくとりなして制御していた。


 そうしてオリビアという親友を得たのは、知る者の多い話だった。


「契約解除の心配はしてないけど。

 貴院校行くのはやだなぁ」


 今も自身の伴魂に魔法を学んでいるのだ。それで十分ではないか。


「まあ、無理でしょうね。

 オリビア様も通わずに済むよう、それとなく手を回したそうですが、強硬派がいましたので」


 オリビアが無理だったのでは、よほどの輩達なのだろう。


 手を尽くしてくれたオリビアに感謝しつつ、フィーナは眉間の皺を深めた。


「……ほんっきで、行きたくないんだけど。

 だいたい、珍しい伴魂持ってるなんて、どうして貴族の方々が知ってるわけ?」


「小児校には、取得した伴魂に関して、国に報告する義務があるのですよ。

 過去、過ぎた伴魂を取得してしまった村人が、伴魂を暴走させてしまい、周囲の村をいくつか消滅させた事例もありますからね」


「……そんなこと言われると『行きたくない』なんてワガママ言えないじゃない……」


 嫌なこと聞いたと口をとがらせていたフィーナに「そう言えば」とザイルは付け加えた。


「近々、作法の指導員が派遣されるとのことですよ」


「え!?」


「何でも昨年、不作法で不敬罪に問われかねない生徒がいた関係で、入学が確定した市井の学生には、あらかじめ作法の指導を受けるようにとのことですよ」


 近々、通達があると思いますので。


 のんびりつお茶を口にするザイルに、フィーナはふるふると頭を振った。


「そんなの聞いてないっ!」


「つい先頃決まった話ですからね」


 アルフィードと自身の伴魂の件があったので、貴院校通いは仕方ないのかなと思い始めていた。


 貴院校に入るまでは、のびのびと過ごし、薬草に関しても所見をまとめたり、捜したい珍しい薬草があったのに。


 思って、フィーナは深々とうなだれた。


 毛並みの白い伴魂は、他人事のように呑気にあくびをしている。


 自身の伴魂を、フィーナは恨めしげな眼差しを送っていた。



今回は長くなりました。

想定外で、小児校卒業してます。

……あれ?

そして少しずつですが、話が進んでます。

……ザイルがこんなに出てくるとは想定外ですが。


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