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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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17.サリア宅、訪問 10


「ブリジットとはクラスが同じだったか?」


 ガブリエフの言葉に、サリアは渋面で頷いた。


「――だから言ったろうに」


 ため息を落とすガブリエフの反応は、フィーナが思っていたものと異なっていた。


 まともに教えない担任に憤るのでなく「さもありなん」と納得している。


 サリアの父親として「まともな授業を」と訴えてほしかったのに、完全に思惑がはずれた。


「理不尽だと――思われないのですか?」


 驚きを隠せないフィーナに、ガブリエフは逆に奇妙なものを見る眼差しを向ける。


「なぜ? 最初からわかっていたことだ。

 他の生徒と同じ対応は望めないと、わかった上でセクルトに進学したのだ。

 サリアにとって今のセクルトは学ぶ価値がないのだよ。

 ――もっとも。

 ブリジットの担任にキャンベル家をあてがう状況までまかりとおるとは思っていなかったがな」


 最後の一言には、ガブリエフは暗い笑みを浮かべていた。


 サリアもガブリエフも、現状を受け入れてしまうのが、フィーナには納得できない。


 思い出すのは小児校、初めての年に、伴魂試験に関して両親と教師陣が話し合った場面だ。


 生徒側と教師側。互いに互いの意見を話し合う場が設けられたと言うのに。


 なぜ、サリアにはそれがかなわないのか。


 理不尽な状況を甘んじて受け続けなければならないのか。


 フィーナには理解できなかった。


 サリアが実際の能力以下だと判じられるのが、我慢できなかった。


「――私はイヤです」


 気が付いたら、口からこぼれ出ていた。言ってはまずいかもと思いながら、止められなかった。


「サリアがそういう状況を我慢しているなんて、いやです。

 サリアも宰相様も言わないのなら、私がキャンベル先生に言います」


「フィーナ?」


 驚いたサリアが「ちょっと、なに言ってるの」と制する。


 そのサリアにフィーナは首を横に振った。


「サリアが退学なんて、絶対いや。

 私がイヤだから、そうならないように私が訴える。

 それならいいでしょ?」


「訴えるって――」


「ちゃんとサリアにも教えて下さいって」


「教えてるって言われるわよ」


「けど、聞いたことに答えてくれないんでしょ?」


「それは私しかわからないことでしょう?

「教えてるけど、理解しない」と言われたら、反論できないでしょう」


「だけど、教えてないのを聞いてるって――」


「聞いたのはマサトでしょう。

 マサトが話せると他の人に言えないのだから、証言にならないわ」


「そ――それは……」


 言われて、フィーナも口ごもる。


 それでも奮起して続けた。


「アレックス様もサリアへの対応を聞いてるんだから――」


「聞いたのは、授業内容ではないでしょう」


「けど――」


 提案をことごとく否定され、フィーナは何も言えなくなって口をつぐむしかなかった。


 悔しくて仕方なかった。


 なぜサリアが理不尽な目にあって、それを打開できないのか。


「サリアは――今のままでいいの?」


「それは――」


 聞かれて、サリアは答えに窮した。


 いいか悪いかで問われたら「いいわけない」との思いがある。


 即答できないサリアに「やっぱり」とフィーナは確信する。打開策を探ろうとする自分の考えが、サリアの意向に反していないと。


 ――どうしても、フィーナには理解できなかった。


 サリアもガブリエフも、現状を受け入れている事態が。


 ガブリエフはサリアがセクルトに進学することすら渋っていた。


 今のセクルトでは学ぶ価値がないとまで言っていた。


 過去のセクルトと比べて、授業内容が希薄になっているのか、実用性のない内容となっているのか。そうした点から、ガブリエフは「価値がない」と言っているのか。


(……違う……)


 考えて、フィーナは思いなおす。


 セクルトで学んだ内容が「価値がない」と思ったことはなかった。


「今の」とはいつと比べてのことなのか。


 なぜサリアには「意味がない」と言うのか。


(――サリアだけ?)


 ふと、ガブリエフの言葉がよみがえる。


「今のサリアには」「今のセクルトには」


 ガブリエフはそう言っていた。


 考えられるのは……。


「セクルトに入学する前に……何かあった……?」


 思ったことが口からこぼれ出ていた。


 フィーナとしてはふと口をついて出た言葉だったが、サリアは目を見開いて顔を強張らせた。


 ガブリエフに目を向けるが、彼には変化がない。


 あったのだ。ガブリエフは意に止めないが、サリアには影響のある何かが。


「なぜ今のセクルトでは学ぶ価値がないとおっしゃるのですか?」


 ガブリエフに問うと、意外そうな表情を向けられた。


「実際、そうなっているだろう。サリアがまともに学べる環境か?」


 ガブリエフの答えを聞いて確信する。


「なぜそのような状況になると――サリアが入学する前から想定できたのですか」


「なぜ――」


 聞かれたガブリエフは意外そうな表情を浮かべていた。


 たずねられること事態、想定していないようだった。


 ちらりと娘に目を向けるが、サリアはうつむいて目を合わせようとしない。


 きつく引き結んだ唇、寄せた眉根。膝に置いた手を固く握りしめている。


 そうした娘の様子から、ガブリエフはそれまで考えていなかった状況に思い至った。


「もしや――」


 驚きを隠せないまま、フィーナに問う。


「知らないのか? 私が宰相になった経緯を」


「――経緯……」


 訝ってつぶやきながら、フィーナは頷いた。


 フィーナが知っているのは「宰相はガブリエフ・スチュード」との事実だけだ。




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