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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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16.サリア宅、訪問 9


「――はい」


「約束……?」


 ガブリエフとサリア、二人の話に首をかしげるフィーナ。


「たいしたことではないの」


「成績が下がったら、即、退学。――だったはずだな?」


「お父様!」


 サリアが明言を避けた内容を、ガブリエフがフィーナに告げる。


 思いもしなかった内容に、フィーナは息をのんだ。


「本当なの……?」


 かすれる声でたずねるフィーナに、サリアは苦い顔で小さくうなずいた。


「そんな……」


 サリアの中期試験の結果はよくなかったと聞いている。


 退学になるのかと考えるフィーナの思いに気付いたサリアが、緩く首を横に振った。


「すぐにではないわ。年ごとの成績で判断する――そういう約束でしたよね?」


 確認する問いをしながら、なぜフィーナに約束の内容を話すのか――非難の眼差しをサリアはガブリエフに向けた。


 ガブリエフは興味のない様子で、サリアの言葉に頷く。


「確かに、そう言ったか。

 ――私としては、今のセクルトに通っても意味がないと思っているが。

 自分が望んで進んだ道だ。

 成果を残せないのなら、早々に退所すべきだろう」


「――え……」


 驚いたフィーナはサリアに目を向けた。


 セクルト貴院校は、貴族籍の子女が通う学び舎だ。


 入学試験を突破しなければ通うことができない。


 貴族籍子女のたしなみとして――箔をつけるためにも、入学を望む者が多いと思っていた。


 親が望んでも、子が気乗りしない。


 そうした生徒を見たことはあったが、サリアとガブリエフのように、子が望んで親が渋る関係は、見たことがなかった。


「私もラナと同じよ。私が目指すものの為に、セクルトを卒業した実績があった方が都合がいいの」


「実績の為に、内容のない時間を費やすか」


「一人で学んでいては、偏りが出ます。浅くとも、広く、自分が興味がなかったことに触れる機会を得られるのは、貴重な体験だと思いますが。

 それにセクルトで学んだ内容は、貴族籍の間では一般常識となります。

 セクルトだからこそ、生徒に統率を任せる部分もあります。

 中児校では行事の段取りは全て教員に指示されるままでした。

 他では経験できない、有意義なものです」


「それもフィーナ嬢との関係があって、関われることだろう?

 本来の成績なら、統率をとられる側で、中児校時代と何ら変わりなかっただろう」


「それは――」


 サリアはそれ以上、何も言えず口ごもってしまう。


 フィーナはサリアとガブリエフのやりとりを、呆然と見ていた。


 サリアに関して、どこか他人事のガブリエフに違和感を覚えた。


 対面した当初、セクルトでのサリアの様子を心配したガブリエフの言動が、うそぶいたものに感じた。


 ――このままだと、サリアは退学になってしまう……。


 そう思って、焦ったフィーナは「あのっ!」と声を上げていた。


「サリアの成績は、私の手助けをして、時間をとられただけじゃないんです。

 サリアの担任の先生も、教えてくれないってところもあるんです。

 サリアの成績が良くなかったのは、サリアだけの責任ではありません。

 せめて担任の先生がきちんと教えてくれれば――」


「フィーナ」


「――え?」


 言葉半ばで、サリアに遮られた。


 ガブリエフからサリアに目を向けると、厳しい表情で「それ以上、何も言うな」と言うように、無言で首を横に振る。


 なぜ、サリアが遮るのか。


 理解できず、戸惑っていると、ガブリエフが「担任?」とつぶやいた。


 担任とは誰か。目で問うガブリエフ。


 対して、サリアは無言で首を横に振って「言うな」と合図する。


 双極の二人に挟まれたフィーナは、戸惑いつつサリアとガブリエフを交互に見た後、ガブリエフにサリアの担任の名を告げた。


 ――ガブリエフが娘の担任の名を知らないのに、胸の内にひっかかりを感じながら。


 セクルトに入学して半年経っている。


 なぜ娘の担任を知らないのか。


 市井出身なら「聞いても誰かわからないから聞かない」もあり得る。実際、ラナの両親はそうだった。


 フィーナの両親は「聞いてもわからないかもだが、アルフィードの担任と同じかも」との考えで聞いて、フィーナも伝えている。(残念ながら、ダードリアはアルフィードの担任になったことはなかった)


 貴族籍ならば、名を聞けば誰かわかるだろう。


 なのに、ガブリエフはサリアに「担任が誰なのか」さえ聞こうとしなかったのか。


 懸念を抱きつつ、クレア・キャンベルの名を聞いたガブリエフは、あからさまに眉をひそめた。





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