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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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15.サリア宅、訪問 8


 フィーナはガブリエフに右の手の平を見せ、五本の指をぴんと立てる。


「ある時、怪我をした男の子が運ばれてきました。

 その子の兄が、木々の枝を切っていた時、男の子がふざけて兄と接触して、その際、右手薬指を切断してしまったとのことでした。

 指はかろうじて、皮一枚で繋がっていました。

 雪原草があれば、用いた薬で患部を巻いて、時間はかかりますが都度都度処置していれば、元通りも可能だったそうです。

 けれど、その時は頼んでいた雪原草がどうしても入ってこなかった時期でした。

 両親は様々な代替となるだろう薬草で対処しました。

 何もしなければ、欠損していた指ですが、今現在、彼の指は傷は残っているものの、日常生活は問題なくすごしています。

 細かな動き、すばやい動きには遅れをとりますが、問題ありません。

 私が雪原草の知識を得たのは、その時のことがあったからです。

 また同じことがあるかもしれない。

 そう思って、なぜ雪原草は入ってこないのか、他の国に雪原草は生息していないのか、商品の輸出入はどうなっているのか、書物を探して読みました。

 様々なことが気になって、調べて知識を得たのです。

 けれど患者さんを目の前にしている両親には、一分一秒が大事で、ゆっくりと本を読んで答えをさがす時間はありません。

 判断力、決断力。薬や薬草に関する知識にはかないません」


「指の切断――」


 フィーナの話を聞いたガブリエフが、目を見開いて小さくつぶやいた。


 父親と同様、サリアも驚いて、父の言葉に続いてフィーナにたずねる。


「お医者様にかからなかったの?」


「お医者様?」


 フィーナは首をかしげて、マサトに目を向ける。


 フィーナの視線を受けたマサトが、主に変わって答えた。


『ドルジェのような田舎には、医者なんていないよ。

 周辺の町や村にもな』


 答えて、自身の言葉の意味と、スチュード親子の驚きを理解した。


『――ああ、だからか。

 エルド家の家業は薬屋だが、医師に近いこともやってる。

 医者のような治療はできないが、薬草でまかなえるところはやってしまうからな。

 ――正直。フィーナの両親のそういうとこ、俺も頭があがらないよ』


 マサトの言葉を聞いたフィーナは、誇らしい思いにかられた。


「指の切断――それが、薬草でどうにかできるのか」


『どうにかできたんだから、できるんだろうよ』


「難しいとは聞いています。

 その男の子は、怪我をしてすぐ処置が施されたこと、その後の手間のかかる処置をご家族の協力のもと、正確、誠実に行い続けたから、良好な経過となったそうです」


 フィーナの話を聞いたガブリエフは、考え深げに椅子に深く座ったまま、顎に手を当てていた。


『ま、こういうわけだ。

 宰相様がどこまで知りたかったか知らないが、答えになったか?』


 マサトの言葉に、ガブリエフは目を閉じて熟考した後「……十分だ」と答えた。


 その後、歓談を続けた後、お開きになる気配を感じたフィーナは、我慢できず、ガブリエフに「申し訳ございません!」と頭を下げた。


 唐突な切り出しに、ガブリエフもサリアも目を丸くする。


「ど――どうしたの、フィーナ?」


 声をかけるサリアに、申し訳なさそうな表情で顔を上げたフィーナは、サリア同様、驚きに目を見張っているガブリエフを見て、再度頭を下げた。


「サリアの成績は私が迷惑をかけたせいです」


 告げるフィーナの言葉を聞いて、サリアは言わんとする内容を理解した。


 理解したものの、逆に困っていた。


 ガブリエフだけが状況を理解できず、眉根を寄せている。


 サリアも父の困惑を察していたが、どう言えばいいのかわからず、口を閉ざしていた。


 しばらく続いた沈黙、フィーナとサリアの様子を見て、ガブリエフも事情を察した。


 ガブリエフはサリアに目くばせをした。


 父の目配せに気付いたサリアは、困った表情のまま、フィーナに「気にしないでと言っているでしょう」と小声で告げる。


「けど――」


「大丈夫だから。フィーナのせいではないのだから」


 そう言ってもフィーナは申し訳なさそうな表情のままだ。


 娘たちの話に、敢えて立ち入らないようにしていたガブリエフだったが、収集のつかない様子を察して、サリアに中期試験の結果をたずねた。


 そこでフィーナは初めて、サリアが自身の成績を父に話していなかったと気付いた。


 余計なことをしたと青ざめるフィーナに、サリアは「隠していたわけではないの」と話しながら、どう説明したものかと思案する。


 口ごもる娘に代わってガブリエフが口を開いた。


「サリアの成績は、本人に任せている。良かろうが悪かろうが、私が何か言うものではない。

 しかし――約束は覚えているな?」





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