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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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14.サリア宅、訪問 7


『俺がフィーナに教えたのは、わからないことがあったら、自分で調べて探すことだ。

 後はフィーナが自分で探して学んでいる。

 セクルトの入学試験が成績よかったのも当然だ。

 書物で読んだことのあるのが多かったみたいだからな』


 マサトの話に、ガブリエフもサリアも納得できる部分があったが、そうでない部分も存在した。


「なぜ薬草を調べる行為が、国の情勢を知るに至る?」


「え……」


 ガブリエフに聞かれたフィーナは戸惑った。


 なぜ、と聞かれても、いつの間にか知っていたとしか答えようがない。


 けれどそれはガブリエフが知りたいことではない気がした。


 ではどう答えればいいのか。フィーナにわかるはずもなく、口を閉ざした。


 そうした主の心境と、ガブリエフの思いを察したマサトが、フィーナに変わって口を開く。


『雪原草に関しては、品切れになったから調べたんだったよな?』


 問いはフィーナに向けたものだった。


 聞かれてフィーナは、戸惑いながらも頷いた。


「雪原草の葉は、単品でなく、他の薬草と配合して使うことが多いから。

 雪原草の葉がないと、作れない薬がいくつかあったの。

 薬草を卸してくれる人も、品切れで入って来ないとしか、わからなくて。

 なぜ品切れになるのか、雪原草はどこで育つのか。

 人に聞いたり、関係することを辿っていったら、ディッファルが雪原草の産地だとわかったの。

 雪原草自体、ディッファルからいくつかの国を経由して、入ってきてた。

 雪原草がどういった特性を持っているのか、その時知ったわ。

 雪原草の特性や、育つ環境がわかれば、ディッファルでなくても似たような環境の国で生息しているかもしれない。

 そこから取り寄せればと思って、雪原草が育つ気候も調べたの。

 ――だけど、雪原草って、特別らしくって。

 他の国で生息していなかった。

 だったら、なぜディッファルから入ってこないのか。

 海賊のせいだと聞いて、なぜ海賊が生息するのか、どうにか手だてはないのか。ディッファルの歴史に関する書物を読んで、ハーセ国民が海賊となっていると知った。あとはハーセの歴史に関する本を読んで、経緯を知ったの。

 ディッファルの王女とカーゼンハイルの王子の恋物語は、調べてた時に、度々出て来るから気になって、お二人の話を元にした本も読んだからよ。

 素敵なお話だったわ。ディッファルと、カーゼンハイルの関係も、その本で知ったの」


 最初はマサトに答えていたフィーナだったが、話している途中から、ガブリエフに視線を向けるマサトを見て、自身の伴魂の思惑を知った。


 ガブリエフが知りたいと考える部分も察しがついた。


 彼は、フィーナが知識を得た経緯を知りたいのだ。


 フィーナの話を聞いたガブリエフは、乗り出していた身を椅子に深く腰掛けて、背もたれに身を預けた。


 顎に手を当てて「……なるほど」とつぶやく。


「そのような経緯であれば、エルド嬢が知識を得たとしても不思議はない。

 注視すべきはむしろ、エルド家の書庫か」


『だから最初に言ったろ。内密にしてくれって。

 そっちが了承したから、話したんだからな?

 そこは守ってくれよ?

 おおやけにしないって』


「心配するな。私も公表するつもりも誰かに話すつもりもない。

 個人的にエルド家の書庫に興味を持っただけだ」


 言って、ほくそ笑むガブリエフを見たマサトは『……はやまったかも』と、渋面で小さくこぼした。


 話を聞いて、エルド家の書庫に興味をもったらしいガブリエフは、書庫を知ったザイルと似た表情を浮かべていた。


「エルド嬢の入学試験に関しては理解した。

 エルド嬢が多方面の知識を得ているのだ。ご両親はさぞ博識なのだろう」


 市井の中に埋もれているのは忍びない。


 そうした言い回しをしたガブリエフに、彼の想いに気付かなかったフィーナは、あっけらかんと告げていた。


「両親はそういうことはあまり知りません」


 ケロリと――当たり前のように告げるフィーナに、ガブリエフはしばらく言葉を失っていた。


 しばらく続いた沈黙の後――。


「なぜ……」とつぶやいたのは、ガブリエフも無意識のものだった。


 フィーナとしては逆に「なぜ」と問われるのが意外だった。


「なぜ……とは?」


 首をかしげながらたずねるフィーナに、ガブリエフはしばらく口をつぐんだ後、フィーナの反応を確かめつつ、口を開いた。


「子が得ている知識を、親が知らないなど、ありえるのか?」


 ガブリエフの問いに、フィーナは小さく目を見開いた。


 ガブリエフの問いを理解できないような、理解できるような――。そうした感覚をおぼえつつ、首をかしげつつ、つぶやいていた。


「私が知らない有益な知識を、両親は得ています」





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