13.サリア宅、訪問 6
「雪原草の産地、ご存知ですか?」
「名から考えるに、北の寒冷地ではないのか?」
「そう思われる方が多いのですが、熱帯地方のディッファル国が産地なのです。
雪原草は手の平ほどの大きさで、その花は白く、開花も一日から二日だけ、一斉に花が開きます。まるで雪が降ったかの景色になることから「雪原草」との名がついたそうです。
雪原草の葉は、傷薬として高い効能を持っています。
葉は傷薬として使われますが、花も珍しい特性があって、花弁を肌に数時間つけておくと、花弁の鮮やかな白色が肌に写ります。人体に害はなく、染まった肌も一週間ほどで元に戻ります。
花弁の特色を利用して、好む形に切った花弁を肌に貼って色を写し、伝統的な民族装飾にもなっているそうです」
『ディッファルの特産物は?』
「え? ガダモンでしょ?」
ガダモンは柑橘系の果物である。
『他に、ディッファルの特徴をあげるなら?』
「特徴……。ディッファルには雪原草の他にも、良い薬草あるんだけど、海賊のせいで在庫切れになることもあるみたい。
宰相様。どうにかなりませんか?」
『何で海賊が出るんだろうな?』
「近くの島国、ハーセ国の経済状態がよくないからでしょ? 海賊もハーセ国民がほとんどらしいし。隣国に勝ち目のない戦をしかけて、負けて、経済が悪化して。戦争に勝った方も、ただ自国を守っただけだから、ハーセを領地にしようとも思ってなかったしね。
隷属として扱われないだけマシなんだろうけど、負の連鎖で国としては破綻しているらしいし。
けど、他国に迷惑かけるのは別問題だと思うけど」
『ディッファルが頼りにしてる国はどこだと思う?』
「カーゼンハイル国でしょ。今の国王はカーゼンハイル出身で、ディッファルの王女との婚姻でディッファルの国王となった経緯があるから」
『――ま、こういうわけだ』
「え?」
マサトに聞かれるまま答えていたフィーナは、告げてガブリエフとサリアに目を向ける自身の伴魂の行動に、首を傾げた。
何がどういうわけか、わからなかった。
わからなかったのだが――。
マサトにつられて向けた視線の先――ガブリエフとサリア、二人を見て、フィーナも目を見張って息をのんだ。
ガブリエフとサリア。親子は驚愕に目を見開いて、フィーナを見ていた。
フィーナが話した内容は、学生が知りえる内容ではなかった。
セクルトでは近隣国と自国に関係の深い国を授業で学ぶが、ディッファルやハーセ、カーゼンハイルは遠方になるため、授業対象となっていない。貴族籍の者でも、知っている人は少ないはずだ。
それを国名だけでなく、内情も端的ながら知っているとは。
フィーナの知識に驚くスチュード親子、なぜ驚かれるか、理解できないフィーナ。
両方の思いを理解できるマサトが、小さく息をついて口を開いた。
『他の奴には薬草に関係ないと思うことでも、フィーナは気になったら本探して調べるんだよ。
そうして得てきた知識は俺がどうこうしたものじゃない。
フィーナが自分で学んできたものだ。
素地――っていうか、地盤っていうか。
そういうのと学び方ができてるから、入学試験でもセクルトに入ってからも、対応できてるんだろう』
「え? な――何が、どういうことなの?」
フィーナはマサトが言ったことを理解できずにいた。
不安げにきょときょとと視線をさまよわせるフィーナに対し、ガブリエフとサリアは驚いて、ただただ、フィーナを見ていた。
薬草の知識を得ようとした内容が、他国の経済状態、歴史、国際情勢に及ぶと想定していなかった。