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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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11.サリア宅、訪問 4


「知ってるわよ。ガブリエフ・スチュード様――……って……」


 言って、自身の言葉にフィーナは驚いた。


 両手で顔を覆って天を仰ぐフィーナの素行は、本来、身分が上の者を前にしては許されないことなのだが、私的な場ということで、遠回しの注意を受けるに留められた。


 そうした経緯のあと、フィーナは深く項垂れていた。


 曰く「名前は認識していたが、目の前の人物と宰相様が繋がらなかった」。


 この場に居るガブリエフはサリアの父と認識していたが、そのサリアの父が宰相だとは思わなかったのだと言う。


「宰相様と接する機会があるなんて、思うわけないじゃない」


 後にフィーナは、寮の部屋に戻ってそうこぼしていたが、サリアとマサトとしてはその認識自体、顔を見合わせるものだった。


 オリビアという王女、カイルという王子、名の知れた自身の姉、元騎士である貴族籍のザイル。それらの人物と親しく、おまけにセクルト貴院校という、国で権威ある学び舎で優秀な成績を修めている現状ながら、フィーナは自身を「単なる一般庶民」としか思っていない。


「単なる一般庶民」に納まらない特異性をいくつも持ち合わせている認識が薄かった。


 そうした話は後のことで、この時、フィーナはひどく落ち込んでいた。


「スチュードとの御家名から、御息女、サリア様の親類筋の方が宰相様になられていると思いこんでいました。……申し訳ございません」


 恐縮するフィーナに、ガブリエフは「いや」と手を上げて謝罪を制した。


「話の流れで役職の話になってしまったが、この場では単なるサリアの父親だ。

 そのように接してもらいたい。サリアにも敬称は必要ない。

 サリアとの話は、普段どおりで構わない」


 ガブリエフの言葉に驚いたフィーナは、サリアに視線を向けて目で「けど……」と不安を訴えた。


 しかしサリアもガブリエフと同意見で「会話はいつものように」と望んでいた。


「お父様の許しがあるのに、フィーナから敬称をつけて呼ばれると、体がかゆくなってしまうわ」


 肩をすくめて告げるサリアに、フィーナもそれ以上反論できず、二人の意向に沿った。


 サリアとフィーナ、二人の関係を理解したガブリエフは、フィーナに次のようにたずねた。


「どのように学んでいる?」


 唐突な質問に、フィーナは目を瞬かせた。


「どのように――とは?」


「まずはセクルトへの入学試験。

 なぜ解けた?」


「なぜ。――と、言われても……わかったからだとしか……」


 フィーナが受けたセクルトの入学試験問題は、市井の民用の問題が出題されるはずだったのだが、フィーナには貴族籍の問題が出された。


 その辺りの事情は、フィーナは直接話を聞いていない。聞いていないが、これまでのやりとりから事情は薄々察している。


 ガブリエフがたずねたのも、そうした視点だろうとフィーナも思って、困ってマサトに目を向けた。


 マサトは眉をひそめて、ピンとたてた尻尾を揺らめかせてガブリエフを見ている。


 フィーナを見ていたガブリエフは、フィーナの視線をたどってマサトに目を向けた。


 ガブリエフとマサト。


 マサトと目を合わせたガブリエフは「やはり……」と口を開いた。


「人語を介する伴魂殿の指導があったからか?」


『――確かに、教えたことは教えたけどな……』


 マサトは渋面を張り付けて、答えも歯切れが悪い。


『……何て言っていいんだかな……。

 俺も万能じゃない。

 教えた部分もあるが、フィーナが自分で学んだとこも多いんだ』


「え? そうなの?」


 マサトの言葉に、誰よりもフィーナが驚いた。


 フィーナとしては、好成績なのはマサトの指導あってこそだと思っていたのだ。


 セクルトに入学してからも、自室でマサトに度々教えてもらっていた。


 そうした状況なのに「自分で学んだ」と言われる状況が理解できない。


 マサトは考えを巡らせた後『これから話すことは内密にしてほしいんだが――』とガブリエフの答えを待った。頷くガブリエフを確認してから、マサトは口を開く。


『エルド家――フィーナの家は、薬屋を営んでいる。

 田舎の一薬屋だが、周辺の村民や町民の薬を一手に担っている状態だ。

 医者に近いこともしている。

 そうした状況だから、薬草に関する書物を集めているらしくってな。

 代々、エルド家の人間が書き記して残していく書物以外に、様々な分野の書物を集めている。

 畑違いの分野でも、薬草に何かしらの参考になったり、関係する可能性があるからだ。

 ――俺もエルド家の書庫を見た時は驚いた。

 一個人が所有する書物数としては半端ねーぞ、あれは』


 マサトの話を聞いて、フィーナは実家の書庫に記憶を馳せた。


 確かに、本はたくさんあったが。




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