20.事情説明とこれからのこと
気がつくと、フィーナはベッドで寝ていた。
フィーナの意識は森で途切れている。
――あれからどうなったのか。どうやって家に戻ったのか。
思いつつ、寝ぼけてぼんやりしながら体を起こした。
記憶をたどる途中で、黒マントの男を思い出し、はっと意識が覚醒する。
『大丈夫だ』
恐れで体を強張らせていると、聞こえてきた声。
聞き覚えのある声は、これまでに何度か聞いたことのあるもので、森でも聞いたものだ。
ずっと聞きたいと思っていたけれど……今は怖い。
森での出来事が、本当にあったことなのだと実感してしまう。
『大丈夫か?』
体調をうかがう声は意識下でなく、フィーナの耳で聞こえた。
若い青年の声だった。
ネコはもう、フィーナには人語を話すのを隠すつもりはないらしい。
フィーナとしてはそれが恐ろしくもあった。
森での出来事を思い出し、無関係ではないと思えたのだ。
黒マントの男は……ネコを狙っていた。ネコはフィーナの伴魂。
ネコを得るために、伴魂の主であるフィーナに危害を加えようとしていた。
フィーナはネコに「大丈夫」と答えて「あの男の人は?」とおそるおそる、どうなったのかを尋ねた。
動けないようだったが、それからどうなったのか、不安だった。
捕まって牢に入れられたと、ネコは説明する。
ウソではない。
ザイルを通してオリビアが隔離し、事情を聞き出しているだろう。
フィーナがアルフィードほどの年齢だったら「どうやって」「だれが」「何の罪で」と不思議に思うのだろうが、フィーナはまだ世間一般的な常識を理解してはいなかった。
状況だけを見ると、フィーナにも伴魂にも危害を加えられた可能性があるだけで、実質的な危害は及んでない。
「かもしれない」では罪には問えないとまでは考え付かなかった。
フィーナは自分に危害を加えようとした、怖い人が牢に捕まっていると聞いて、自身の身の安全を確信し、安堵する。
それからネコは、一応のあらましを説明した。
男が狙っていたのは、自分だということ。
伴魂の主であるフィーナに危害を加えて、ネコを捕えようとしていた。
そして、人の言葉を理解して会話を成り立たせる獣は、本当に珍しく、その希少価値のために、手荒な手段を講じても手に入れようとする輩が存在するだろうと。
「だから……話そうとしなかったの?」
『知られない方がいいと思っていた。
下手に話が広がるよりはな』
「……ごめんなさい」
自分の不用意な発言が、危険を招く可能性があったと知り、フィーナは肩を落とした。
物わかりのいいフィーナに、ネコは多少拍子抜けしつつ、理解を得られことに安堵する。
フィーナも言葉だけでは訝っただろうが、現実として不審な男と対峙している。
恐怖が色濃い中、信じざるをえない状況でもあった。
それからネコはフィーナに、他の人には人語を話せることを言わないようにと約束させた。
話せると周囲に知れて、余計な危険を増やしたくないのだと説明した。
フィーナは素直に了承した。
……ザイルの件が、ネコの頭の片隅にあったが、変わった気性の持ち主だと把握している。
自分の望む物を得られるうちは、興味を持っている間は他言しないだろう。
たとえ、相手がオリビアでも。
忠誠心よりも、特別な事象を一人占めしたい傾向が強いと考えていた。
そうでなければ、これまで漏らしていた人語による独り言も、オリビアに筒抜けだったろう。
先日来訪したオリビアを見る限り、彼女が知っている様子はうかがえなかった。
それからネコはフィーナと、これからについていくつか決めごとを交わした。
必要な時は出向くが、あまり人前には出ないようにすること。
人語を話すことは両親にも姉のアルフィードにも内密にすること。
そして――もしもに備えて、魔法を教えるので習得すること。
「今日のって、やっぱり……」
習って告げた言葉に反応して、起きた事象。
それは……。
『魔法だ。ごく簡単なものだがな』
簡単と言えるもので気を失ったフィーナの不安を先どって、ネコは『練習すれば大丈夫』と告げる。
『今日は無駄が多かった。
訓練すれば無駄は少なくなるし、魔力も増える』
「え」とフィーナは目を丸くした。
「魔力って、増えるの?」
『簡単じゃないがな。
どんなことでも、練習すれば上手になっていくだろう?
魔法も魔力も同じだ』
「そうなんだ」と感心するフィーナに、ふと……前々から思っていたことを、ネコは口にした。
『嫌か?』
「何が?」
『俺が……伴魂だというのは』
「どうして?」
『危ない目にあったし、これからも怖い思いをするかもしれないし……訓練、必要になるし。
面倒だろ?』
ネコの言葉にフィーナは「う~ん」としばらく考えた。
「よくわかんない」
想定外の答えに、ネコは拍子抜けする。
「怖いけど、仕方ない」「嫌だけど、仕方ない」契約を解除できないのだから。
そんな返事を想定していた。
「ちょっと怖いなって思うけど。
危なくなったら、今日みたいに守ってくれるんでしょ?」
『……ああ』
「だったらいいよ」
言いながら、フィーナはネコに手を伸ばし、白い体毛に包まれた体を抱きしめた。
「気持ちいいしね~」
体毛に顔をうずめて心地よさを堪能している。
能天気なのか危機感が薄いのか。
拍子抜けしながら『まあ、いいか』とネコは人知れず嘆息した。
図らずして伴魂契約を交わしてしまったが。
(守るよ)
今度こそは。
(……リージェ)
守っているつもりで、守られていた。
君の分も含めて、守ってみせる。
そう、決意して。
文量、少なめです。
ちょっとだけですが、話が進展しました。
次回は数年後がメインです。
小児校卒業して、中児校最後の年です。
さらりと時が経過します。
どこが転生要素か、わかったと思うので、あらすじ書き変えないとなー。
けど、まだまだ明らかになっていない所は多々あります。
それは後で少しずつ。