9.サリア宅、訪問 2
「いえ。本日は御招きいただき、ありがとうございます」
言って、頭を下げる。
サリアは父にどんな話をしているのか気になったが、そこには触れずにおいた。
ガブリエフはつと、フィーナの胸元に目を向けた。
「……確かに」
目を細めながらつぶやく。
胸ポケットの刺繍は、入学試験時の結果が記されている。
ガブリエフはまず、そのことを確認していた。
「招待しておきながら申し訳ないが、あまり時間がとれなかった。
悪いが、回りくどい話は抜きにさせてもらう」
「お父様――。そのような言い方と、尋問されているように聞こえます」
ガブリエフの物言いに、サリアが忠告する。
「そうか?」とガブリエフは考えを巡らせ、顎を右手で数回しごいたあと、手を戻した。
「性分でこのような話し方になる。申し訳ないが、口調は気にしないでもらえないだろうか。
エルド嬢にはいくつか聞きたいことがある」
「――なんでしょう?」
外見は気丈に振舞いつつも、内心「何を聞かれるのか」とフィーナはハラハラしていた。
(サリアに仕事任せすぎとか、もっと自分で仕事しなさいとか、言われるんだろうな……)
言われるだろうことを想像して、謝罪の言葉を考えていく。
「サリアはセクルトでうまく馴染んでいるだろうか」
「迷惑をおかけし――。え?」
「サリアの成績がよくなかったと聞いたが?」→「サリアに迷惑をかけてごめんなさい」との流れを想像していたフィーナは「サリア」と聞いただけで反射的に謝罪を述べようとした。
しかしガブリエフが口にしたのは、サリアの日ごろの様子をたずねるものだった。
ガブリエフは先走ったフィーナの言葉は聞かなかったこととして流して、言葉を続ける。
「我が娘ながら……我が娘だからか、融通がきかないところがある。
セクルトでうまくやれているのか、気になっていた。
サリア自身、セクルトの話をあまりしないので、状況がよくわからない。
私も多忙で、ゆっくり話を聞く時間もない。
兄にはいくらか話しているので、そこから聞く程度の情報しか聞いていなかった」
「何も、このような場で聞かずとも――」
「お前があまり話さないのだから、仕方ないだろう。
それに、人の目からどう見られているのか、知っておきたいのが親心というものだ」
サリアはガブリエフの話に戸惑っている。
純粋に、サリアの話が聞きたいのだと感じたフィーナは、緊張を解いて口元を緩めた。
「サリア様には感謝しても足りないほどお世話になっております。
他の生徒からの信頼も厚いですし、同室者としても心強い限りです」
「――その件だが……なぜサリアがエルド嬢と同室となる」
眉をひそめるガブリエフに、フィーナは驚きで目を瞬かせた。
サリアに目を向けると、左手で顔を覆って、項垂れている。
(もしかして――話してなかった?)
同室者だと知っているようだが……経緯は知らないのか?
懸念は、ガブリエフの言葉で確信に変わった。
「本来、首席であるはずのエルド嬢は、個室となるはず。しかし実際は個室でなく、同室者はクラスが違えるほど成績の離れているサリア。なぜこのような状況になるのか――」
「え……あの……」
まさか経緯を聞かれると思っていなかったフィーナは、どう答えればいいのか、戸惑ってサリアに目を向けた。サリアがガブリエフに話していないということは、言わないほうがいい事柄が何かしらあるのだろう。しかし当のサリアはあさっての方に目を向けて、顔を合わせようとしない。
何をどう話せばいいのか、どこまで話せばいいのか判断できず、フィーナが口ごもっていると、覚悟を決めたサリアが、ガブリエフに顔を向けて口を開いた。
「私から、説明させて頂きます」
「いや。エルド嬢。貴女から伺いたい」
「え?」
「そんな、お父様」
ガブリエフの言葉に、驚くフィーナ、焦るサリア。
ガブリエフは静かな眼差しをサリアに向けた。
「サリア。お前が話すと都合の悪いところはごまかすだろう?
私は真実が知りたいのだ」
ガブリエフの言葉に、サリアは反論できず、口をつぐんだ。
そして申し訳なさそうに――何かを諦めた眼差しを、フィーナに向けた。
「ごめんなさい。フィーナから、話してもらえないかしら」
「……いいの?」
「ええ。……事実を、そのままに」
請われてフィーナは、ぽつぽつと、過去に記憶を馳せながら話していた。
時々、フィーナが勘違いしていた部分をサリアが訂正、もしくは言葉足らずになっていた部分を補足しつつ、同室者、寮長と副寮長、校外学習運営陣に関してまでをかいつまんでガブリエフに話した。
ガブリエフはブリジットの名を聞くと、あからさまに眉をひそめたが、彼女の望みが通らなかった話は満足そうな笑みを浮かべていた。




