表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
197/754

8.サリア宅、訪問



       ◇◇        ◇◇



 サリアの家は、王都内にあった。


 セクルト貴院校にも比較的近い場所だったが、それでも徒歩だと数時間かかってしまう。


 休日、フィーナとマサトはサリアに案内されるまま、彼女の家に赴いた。


 当日、貴院校の側には、スチュード家の馬車が用意されていた。


 フィーナ達は四人乗りの馬車で、スチュード家に向かった。


 衣服はサリアの父、ガブリエフ・スチュードに制服でと指定されている。


 いつもの白いジャケットを準備したフィーナに、サリアが申し訳なさそうにガブリエフからの伝言を告げた。


「当初、支給されたジャケットでと言われてるの」


 フィーナは戸惑った。


 ダードリアに白いジャケットを支給された際、制服で行動する時はそれでと言われていたのだ。


 フィーナの戸惑いに気付いたサリアが、苦笑して続ける。


「大丈夫よ。お父様も事情はご存じだから。白いジャケットを提案したのもお父様とのことだし」


「そうなの?」


 初めて聞く話に、フィーナは目を瞬かせた。


 それなら大丈夫だろうと思いつつ、念のため、サリア以外の人の目がある場所では、腕に抱いたマサトで胸ポケットが隠れるように注意していた。


 マサトも協力してくれた。


 馬車に揺られて、サリアの家に到着する。


 貴族籍の家、現大臣の家と聞いていたから、広い邸宅だろうと想像していたが、実物も想像を裏切らないものだった。


(家のいくつ分だろう……)


 ドルジェの家との違いを思いながら、近づくと見上げるほど高い邸宅を眺める。


 庭も広く、手入れが行き届いていた。


 案内されるまま、おそるおそる邸内に入ったフィーナだったが、思ったより緊張しなかった。


 邸内は荘厳な印象を受けつつも華美な装飾はなく、値打ちがあるだろう装飾品も、ところどころに飾られている程度だった。


 質素な印象を受けながらも、気品がある。


 サリアの家らしいなと思えた。


 サリアに連れられた来客室は、四人程度座れる丸テーブルが用意され、椅子も四脚備えてある。


 入室して、サリアに言われるまま席に着いてしばらく。


 サリアの父、ガブリエフ・スチュードが入室した。


「遅れて申し訳ない」


 招待しながら出迎えもできなかったことを詫びる。


 年は四十代後半だろうか。薄紺の短かめの髪、瞳は深い蒼。


 全体的に武骨さを感じる体格は、一騎士団の長であるゼファーソンを思い起こさせた。


 ガブリエフは文官の装いだった。胸元にあしらわれた、崩した文字の小さな刺繍が、彼の役職を現しているのだが、文字が崩されすぎて、フィーナには読みとれなかった。


 厳格さは身にまとう雰囲気で感じ取れた。


 気難しそうだと、フィーナは感じていた。


 フィーナは椅子から立ち上がると、最上級の挨拶を送った。


 ガブリエフはそれに簡易な挨拶で応じる。


 身分差がある場合、上位者から下位者には簡単な挨拶か、軽く手を上げたり頷いたりで応じるようになっていた。


 ガブリエフに促されて、フィーナは椅子に腰を下ろす。


 ちょうどその時、扉がノックされて使用人が入室した。


 お茶と茶菓子が配られると、使用人は退室した。


 配膳されたお茶を見たガブリエフが、小さく目を見張る。


 そしてサリアに目を向けた。


「これが例のものか」


 ガブリエフはフィーナの薬茶を所望していた。


 サリアからフィーナの薬茶の話を聞いていたガブリエフが興味を持ち、今日、持参して席で共に飲みたいと伝えていたのだ。


 サリアの家についた際、使用人に茶葉を渡して、普通のお茶と同じようにいれてもらい、出してもらった。


 カップに手を伸ばして口にしたガブリエフに続いて、サリアとフィーナも口をつけた。


 今日は男性に好まれる、爽やかな薬茶を準備している。


 机に向かう作業で頭が重だるい時に、思考をすっきりさせる作用があった。


「……なるほど」


 ガブリエフは味わった後、わずかながら口元を緩める。


 気にいってもらえたようだと、フィーナは胸をなでおろした。


 サリアから「薬茶を飲んでみたいと言われた」と聞いた時は気が気でなかった。


 貴族籍の、大臣ともなる方の口に合うのか、心配でならなかったのだ。


 心配ごとの一つをクリアして安堵したフィーナに、ガブリエフが声をかけた。


「急な招待に応じて頂き、感謝する。

 娘のサリアから話は聞いていた。

 もっと早い段階で一度会っておきたいと思っていたのだが……なかなか都合がつかず、今となってしまった」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ