7.前期定期試験の結果【サリアの成績 7】
「さっきも謝ってたけど……どうして?
何かあるの?
……あ。
サリアの成績下がったの、私のせいだから?」
「フィーナのせい? 私の成績が? どうして?」
意味がわからないと目を丸くするサリアに「だって……」と俯き加減だった顔を本格的に俯かせた。
「本当はサリアのお仕事じゃないことを、いろいろお願いしてたから……。
それで忙しくなったでしょう?
勉強する時間、少なくなったから……」
「副寮長、校外学習、その他に関しても、引き受けたのは私よ。
学生である以上、勉学に力を注ぐのが大前提でしょう?
しなくていいことを引き受けて、勉学に支障をきたすのなら、それは私自身の責任よ。
フィーナが悔やむことではないわ。
……対策は講じていたんだけれど。
前期試験では想定の上を行くことをされたの」
「してやられたわ」と、サリアはため息を落とす。
「だったら、そのことを訴えればいいじゃない」
「証拠がないのよ」
「だけど――」
「フィーナ」
サリアは息まくフィーナに、やんわりと言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「同じ時刻、同じ時間内、同じ問題。同じ条件で受けた試験で、フィーナの結果はよかったのでしょう?
フィーナの言うように訴えると、関係ない学生に迷惑をかけてしまうわ。
一人の不利益か、大多数の不利益か。
今回の件は想定できたのに、対処しきれなかった私にも責任があるわ」
「――ひどいことされたサリアに、責任があるわけないじゃない」
告げたフィーナの声は、いつになく低いものだった。
激しい怒りを内包していると、伴魂であるマサトは感じとり、これまで感じたことのない主の感情の高ぶりにうろたえてしまう。
戸惑ったマサトは、助けを求めるようにサリアに目を向けた。
サリアも、フィーナの、いつもと違う様子を怪訝に思っていた。
マサトの視線を受けて「フィーナ」と声をかけて話題を転じた。
「勉強の件は、また今度話しましょう。
明日、家に来ると連絡して大丈夫?」
サリアの御宅訪問。
サリアの担任であるクレア・キャンベルから意識がそれて、重苦しかったフィーナの雰囲気が、いつものものに戻った。
「それは大丈夫だけど――。
――そういえば、巻き込んだって、どういうこと?」
「私の同室者として、お父様が興味を持たれたみたいで――。
どうやら、同室者になった経緯も、私が副寮長をしていることも、校外学習に関わってたことも、筒抜けだったみたい」
「話してなかったの?」
「……ええ。面倒になるとわかっていたから」
「面倒?」
「フィーナがね。面倒なことになるだろうから――」
「私が?」
サリアの言っている意味がわからず、フィーナは眉をひそめた。
サリアはどう説明すればいいのかと考えを巡らせていたが。
「――明日。会えばわかるから」
と、説明を諦めた。
「先に謝っておくけれど。
本当に、巻き込んでごめんなさい。
お父様は……何と言うか……いろいろとごめんなさいな人だから」
フィーナに関心を持たないように、寮の話はしないようにしていたのだが、独自のツテを持っている父には全てを知られていた。
……フィーナだけでなく。
サリアは、マサトに目を向けた。
サリアの父であるガブリエフ・スチュードは、明日招く際、フィーナだけでなく伴魂同伴でと告げていた。
伴魂は主に付き従うものだから、わざわざ「伴魂同伴」と通達する必要はない。
それなのに、敢えて伝えたのを考えると――。
サリアと目が合ったマサトは、きょとんとしている。
そのマサトに、サリアは申し訳なくて、小さく頭をさげたのだった。